契約書作成時の注意点
タイトル..
契約書作成時の注意点
しかし、後日の債権回収を確実に行うためには、当事者の合意によって、どのような債権が発生し(内容)、その合意がどのような形で実現されるのか(履行)を明確にしておく必要があります。
また、債権回収を容易にするため、あらかじめ担保や相殺に関する条項等を定めておく必要があります。
契約書に不可欠な条項
内容についての条項
債権は、当事者の合意によって発生しますから、「お金を貸した」、「商品を売った」という当事者の合意内容をはっきりさせておく条項が必要です。
具体的には、①どのような原因で債権が発生したか、②いつ債権が発生したか、③債権の内容は何か、を定めておく必要があります。
【具体例】 第1条 甲(債権者)は、乙(債務者)に対し、令和○年□月△日、金銭消費貸借契約に基づき、金300万円を貸し付けた。
履行についての条項
債権の内容についての条項の他に入れておかなければならない条項は、①弁済期に関する条項と、②弁済場所に関する条項です。なお、下記の具体例に記載したように、②弁済場所を「債権者の住所地」(会社の場合は本店所在地)と定めておく(これを「持参債務」といいます)と、以下のようなメリットがあります。
債務者は実際に弁済を行わなくても、弁済場所において現実に弁済しようとした事実さえあれば、債務不履行責任を逃れることができます。
そのため、後日、債務者から「弁済しようと思って準備していたが債権者が取り立てに来なかったから払わなかった」と反論されることを防ぐためにも、弁済場所が「取立債務」(債務者の住所)ではなく、「持参債務」となっているかどうか注意して定めておく必要があります。
民事訴訟法上、債務者の住所地にある裁判所が管轄裁判所になるのが原則ですが、他方で、義務履行地(つまり債務の弁済場所)を管轄する裁判所でも訴訟を提起できると定められています。
そのため、「持参債務」の形で定めておけば、債権者が北海道に住み、債務者が沖縄に住んでいた場合にも、債権者は北海道で訴訟を提起することができることになります。
また、当事者間で予め債権者の住所地の裁判所を第一審裁判所とする旨の管轄の合意をしておくことも可能です。
【具体例】第2条 乙(債務者)は、甲(債権者)に対し、前条の貸付金債務元本を、令和○年□月△日までに、その時における甲の住所に持参または送金して支払う。
契約書に入れた方がよい条項
期限の利益喪失条項
支払方法が分割払いの場合に、債務者が1回でも債務の支払を怠ったときには、期限の利益を失い、直ちに債務残額を一括で支払わなければならない旨の条項を定めておくと、債務者が支払を怠った場合、未払金全額についての債権回収手続に直ちに着手することができます。
【具体例】第3条 乙(債務者)が債務の分割金もしくは利息金の支払を一回でも遅滞したときは、乙は債務全額につき当然に期限の利益を失い、乙は直ちに債務全額を甲(債権者)に支払うものとする。
損害賠償予定の条項
債務の弁済期を過ぎた場合、金利と同額の遅延損害金を請求できます(民法第419条第1項)が、金利よりも高い遅延損害金を定めておけば、債務者に心理的に弁済しなければならないという圧迫感を与えることで、債務の任意の弁済を促すことができます。
【具体例】第4条 乙(債務者)が本契約上の債務を弁済期に支払わなかったときは、不履行の日の翌日から年1割の割合による遅延損害金を支払う。
担保保証に関する条項
支払能力がある保証人をつけたり、不動産に抵当権をつけておいたりすることは、債権回収において相当に有利なことです。
しかし、保証の合意を取り付けるのに時間を要したりして、契約時までに担保を差し入れることが間に合わない場合があります。
その場合、契約書のなかで、債務者に保証人を立てさせる義務や、抵当権設定義務を負わせる条項を定めておけば、債務者が当該条項に反した場合に、契約違反として契約を解除したり、また、債務の期限の利益を喪失させたりすることで、直ちに債権回収手続を行うことが可能となります。
【具体例】第5条 乙(債務者)は、後記土地の所有者○○の承諾を得て、右土地に本契約上の債務担保のため債権額金□□□□円の抵当権設定の義務を負う。
相殺予約に関する条項
相殺とは、当事者双方が、互いに同じ種類の債権を持っている場合に、差し引き計算して債権を消滅させることです。債権者は、債権が消滅した範囲で、実質的に債権を回収することができるため、相殺は、商取引において、有効な債権回収方法のひとつと言えます。
【具体例】第6条 甲(債権者)が、乙(債務者)に対し、債務を負担している場合、甲の債権の弁済期到来前であっても、甲は自己の債務につき期限の利益を放棄し、いつにても甲の債権をもって対当額にて相殺することができる。
契約解除の条項
継続的な取引契約の場合には、一定の事由が生じた際に契約解除ができるよう定めるとともに、同時に支払期限未到来の債務を含め、債務全額の支払いを請求することができるように定めておくことも有用です。
解除権には、債務者に契約違反があった場合に法律上認められる法定解除権と、当事者の合意によって認められる約定解除権があります。
法定解除権の場合、原則として催告をした後でしか解除できません。
そこで、催告なしでも解除できる無催告解除の特約を定めておくことで、例えば、取引先が倒産して所有権を留保している商品を引き上げる場合に、直ちに売買契約を解除し、自社商品の回収手続を早く進めることができます。