▷未回収のパターンと予防的対策
タイトル..
CASE1 診療報酬を支払ってもらえないので、請求書を郵送したら、以前書いてもらった患者さんの住所が違っていて、返送されてきてしまい、請求できなかった。
請求したいとき、連絡先がわからなかったら、話になりません。氏名・住所・電話番号・メールアドレスを確実に取得してください。また、保険証と運転免許証のチェックはきちんと行いましょう。
個人情報については「当病院ではこういう規則で行っておりますので、宜しくお願いいたします。」と規則を予め作成して、患者さんに確認してもらっておきましょう。
それと、勤務先の名前や連絡先を書いておいてもらうことが大変重要です。裁判を提起して、勝った場合、給料を差し押さえることができるからです。
但し、実際には、「もうここまでくると、裁判にしますよ。その後、勤務先に差し押さえることになりますが、大丈夫ですか?」という内容証明を出すと、支払ってもらえることも結構あります。
CASE2 毎回通院してくる患者さん。「いつも、次は払いますので」と言って、忘れてしまう。
このような場合、次回までに支払うとか、何日までに支払うなどと記載した文書に署名捺印をいただくのが良いと思います。
「私は貴医院に対し、医療費○円を支払っていません。今日はお金を持っていないので、内○円だけお支払いします。残額は○日までにお支払いすることをお約束します。」と書いて、名前・住所・電話番号・メールアドレス・勤務先・勤務先の連絡先を書いてもらいます。
その際、書いていただいて、書類だけを病院でもっていればよいと思われる方多いのですが、カーボン紙を入れて、原本は病院で、写しを患者さんに渡して持ち帰ってもらう、ということが重要です。患者さんの手元に写しを持っていてもらうことで、支払わなければならないことを思い出してもらえて、支払いにつながるからです。
CASE3 何度か請求してみたけど、お金を全く持っていないようで、まったく支払ってもらえない。
医療機関はお金のない人も診察しなければいけないので、こういうこともありえます。
このような場合に備えて連帯保証人を確保することが非常に大事です。もちろん、通常の治療の場合、連帯保証人を確保するのは難しいですが、入院の場合は、必ず連帯保証人を確保することをお勧めします。
その際には、入院契約書に、「入院期間中にかかる入院費、診療費、その他の諸費用につきまして、本人(患者)と連帯保証人は連帯して支払います。」と記載し、本人(患者)と連帯保証人双方の署名・捺印をいただいておくと安心です。
CASE4入院手術で退院後、来月支払うと約束しておいて、払わず時間だけが過ぎていく。
これもよくあります。このような場合は、「今お支払いいただけないのですか。ではあなた収入はどれだけあるんですか。一ヶ月の支出はどれだけですか。資産はありますか。他に債務はありますか。」といった患者の状況を聞いていく事が大切です。このように聞いていくことで、返済計画が出来上がっていくからです。
聞いてみて、実際に無理そうであれば、「確かに、それなら今全額は無理ですね。全額払えないなら、少なくとも奥様を連帯保証人にしてください。あとの残金は分割払いをしてください。」というように、一緒に支払える方法を考えて、合意書を作成します。
分割払いにする場合には、「支払いを一回でも怠った場合には、直ちに期限の利益を喪失し、残額を一時に支払う。」という期限の利益喪失約款は非常に重要ですので、絶対に落とさないでください。
また、このような合意書だけでは、給料の差し押さえ等はできません。判決をとらなくても差し押さえられるようにするためには、公正証書を作成しておく必要があります。実際に差し押さえるケースは殆どありませんが、「払わなかったら、給料を差し押さえられる。」というのは予防効果として絶大です。
CASE5 入院患者が残念ながら亡くなってしまった。誰に請求すれば良いか分からない。
この場合は、弁護士にご相談ください。なぜかというと、通常、相続人が誰かということが正確には分からないからです。未収金支払義務も、相続人に、相続分に応じて相続されます。従って、相続分に応じて請求できる、ということになります。
弁護士は、職務上請求により個人の戸籍謄本を取り寄せられますので、弁護士に依頼すれば、戸籍を確認のうえ、相続人に未回収分を請求することができます。
CASE6 適切な治療を行ったのに、そんな治療をやるなんて聞いてない、治療行為が不適切だから支払わない、と言われている。
いわゆる「モンスターペイシェント」のケースです。高額な金額で係争になっているものは、これが一番多いです。
その原因となっているのが、治療前の説明義務の不履行です。事前に診療行為の内容や費用についてきちんと説明をしなかったことが、後に診療報酬未回収の原因となってしまっていることが多々あります。
医師の側ではきちんと説明できていると思っていても、患者や家族に明確に伝わっていないことが多いため、説明義務の履行がなされているかについて病院内でも十分に検討しておくことがとても重要です。
また、残念ながら治療の結果が思わしくない場合もあります。そういった時も、説明の仕方はとても大事ですし、法的責任も問われる可能性がありますので、弁護士と相談しながら慎重に進めていくことが大事です。
このあたりについては、当事務所でも、医師や看護師の方と打ち合わせをして、「今、こういう説明をすると、法的にどう評価されるだろうと思いますから、こうやって患者さんに説明しましょう。」と決めていきます。
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