会社に損害を与える取締役の責任を追及する方法
タイトル..
【ご質問】
Q 会社に損害を与える取締役の責任を追及したいのですが、どうすればいいでしょうか?
【弁護士からの回答】
A 会社が取締役に対し、損害賠償請求訴訟を提起することが考えられます。ただし、経営判断の原則から、必ずしも取締役の責任が認められる訳ではないことに注意が必要です。また、訴え提起の前に、取締役の資産関係を調査することも重要です。
1 取締役の責任
取締役は、会社から委任を受けて業務執行を行う立場にあることから、業務執行を行う上で、会社に対し、善管注意義務・忠実義務を負っています。そのため、取締役がその任務を怠り、会社に損害を生じさせた場合は、会社に対して、その損害を賠償する責任を負います(会社法423条第1項)。
2 経営判断の原則
しかしながら、取締役の業務執行は、その当否が不確実な状況で判断をしなければならないことも多く、本来、リスクを伴うものといえます。そのため、取締役の業務執行について、事後的な結果のみから判断し、取締役に責任を負わせることとすれば、取締役の業務執行は委縮してしまいます。
そこで、取締役に経営判断について広く裁量を認め、取締役の業務執行が適正な経営判断であったと評価できる場合には、取締役の業務執行の結果、会社に損害が生じたとしても、取締役は責任を負わないものとするのが、経営判断の原則です。
取締役の業務執行が適正な経営判断であったかは、
① 経営判断の前提となる事実の認識過程(情報収集及びその分析・検討の過程)に不注意な誤りがなかったか
② 事実認識に基づく意思決定の過程及び内容に著しく不合理な点がなかったか
以上の2点により判断されます。
取締役の損害賠償責任が認められるかは慎重な判断を要しますので、まずは弁護士にご相談いただくことをお勧めします。
3 提訴権者
会社が取締役に対して損害賠償請求訴訟を提起する場合には、
① 監査役設置会社においては、監査役が会社を代表します(会社法第386条)
② 監査役設置会社以外の会社においては、原則、代表取締役が会社を代表します(会社法第349条第4項)。もっとも、取締役に対する損害賠償請求訴訟の訴えについて、株主総会または取締役会において会社を代表する者を別途定めた場合には、その者が会社を代表して訴えを提起することとなります(会社法第353条、第364条)。
4 取締役の財産の仮差押え
仮に、取締役に対する損害賠償請求訴訟において勝訴したとしても、取締役が任意に損害を賠償しない限り、強制執行の手続により、強制的に取締役の財産の回収を行う他ありません。
しかしながら、訴えを提起された取締役が財産を処分または隠匿してしまえば、強制執行による回収はできなくなってしまいます。
そこで、取締役による財産の処分・隠匿を防ぎ、勝訴後の財産回収の途を確保するため、取締役の財産を凍結する、民事保全手続を利用することが考えられます。
具体的には、訴訟提起前に、民事保全手続のうち、預金口座、有価証券、不動産、その他金銭債権等を仮に差押える「仮差押」手続の申立てを採る方法が考えられます。
そのため、取締役への損害賠償請求訴訟の提起を検討する場合には、事前に、取締役の資産関係を調査することも重要です。
仮差押命令の発令のためには「保全の必要性」の疎明を要し、また、担保金の供託の必要があるなど、仮差押手続を選択すべきか否かは専門的判断を要しますので、まずは弁護士にご相談頂くことをお勧めします。
お困りの方は湊総合法律事務所までご相談ください。
<顧問弁護士について> 顧問弁護士が継続的に企業経営に関する法的なサポートをさせていただくことで、より効果的に法的トラブルを防止し、迅速かつ的確な問題解決を図ることが可能となります。 そのために私達の事務所では法律顧問契約を締結して対応させていただくことをお薦めしております。担当弁護士が貴社の状況を把握して、直接お会いして、あるいは電話、メール、Zoomなどの手段を適切に利用して、相談に臨機応変に対応させていただきます。 こうすることにより問題発生前に法的トラブルを防止し、 企業価値を高めることを可能としています。 法律顧問料はかかりますが、結果としてコストの削減にも繋がっていきます。▷顧問契約についての詳細はこちらに掲載しております。是非ご参照ください。 |
取締役・取締役会の関連ページ
- 取締役・取締役会
- 取締役会に関する会社法上の規定について弁護士が基礎知識から解説
- 中小企業における株主総会・取締役会の実態と必要性について
- 取締役会の招集手続き
- 名目取締役に対する招集手続き
- 取締役会における決議事項
- 取締役会の決議方法
- 注意すべき決議事項
- 取締役会決議に関する過去の不備の対応方法
- 特別利害関係取締役とは
- 取締役会議事録記載事項
- 取締役会議事録の作成
- 取締役が負う責任・賠償リスクの軽減方法とD&O保険の活用
- 取締役の経営上の判断によって会社に損害が生じた場合
- 経営判断の原則が適用される場合とは?
- 取締役(役員)の解任を行う際の具体的な手続き
- 反対派の取締役を辞めさせる方法
- 取締役を解任された場合の対応
- 取締役の報酬の減額
- 退任取締役から退職慰労金の請求を受けた場合の対応
- 取締役に関する紛争(取締役間の紛争、会社と取締役との間の紛争、株主と取締役との間の紛争等)
- 会社に損害を与える取締役の責任を追及する方法
- 【解決事例】取締役に関する法律相談と当事務所の解決事例
- 【解決事例】退任取締役(少数株主)との紛争を裁判上の和解により解決した事例
- 【解決事例】取締役の違法行為差止仮処分を申し立て、同手続中で和解が成立した事例
- 【解決事例】退任取締役の未払役員報酬全額の支払いを認める判決を獲得した事例
- 【解決事例】子会社から対象会社の株式の譲渡を受け持株比率を変更することで取締役の退任を実現した事例
- 取締役に関する紛争対応サービスについて