改正労働契約法第18条の解説
タイトル..
(1) 改正労働契約法18条の概要
改正労働契約法18条はどんな制度ですか。
有期労働契約(期間が定められた労働契約です。)は,契約期間が満了した場合,契約が更新されて雇用関係が継続することもあれば,契約が更新されないで雇用関係が終了(「雇止め」といいます。)することもあります。
つまり,有期契約労働者にとっては,雇止めを受けてしまう不安があることから,例えば,本来であれば取得が許されているはずの年次有給休暇をきちんと取得しないなど,正当な権利行使が事実上抑制されてきたという実情がありました。こうした実情を踏まえてできたのが,改正労働契約法18条です。
改正労働契約法18条は,同一の使用者との間で,有期労働契約期間が通算して5年を超えて反復更新された場合,その労働者の申込みによって無期労働契約へと転換することを認めたものです。
この施行日は平成25年4月1日であり,この日以降の有期労働契約が「通算契約期間」としてカウントされます(逆に言うと,平成25年3月31日までの有期契約期間は,10年であっても「通算契約期間」としてカウントされません。)。
(2) 「同一の使用者」の意義
「同一の使用者」の意義をお教えください。改正労働契約法18条は,「同一の使用者との間で」と規定していますが,親会社で有期労働契約者として3年間働き,その後,子会社へ出向して有期労働契約者として3年間働いたという場合には,「同一の使用者」に当たらないのでしょうか。
「同一の使用者」に当たるか否かは,法人単位で判断されると解釈されています。そうすると,親子関係にある会社であっても法人格としては別ですから,「同一の使用者」に当たらないというのが原則です。
しかしながら,別法人であるとはいえ,資本的に見れば実質的には同一の会社といえるような場合には,「同一の使用者」に当たると判断される可能性を否定することはできません。
なお,法人が同一であるならば,事務所や職種,勤務条件,待遇が変わったとしても,「同一の使用者」の下で働いたことに変わりはありません。
(3) 「通算契約期間」
ア 通算契約期間の起算時期
当社には,平成24年4月1日時点で1年間の雇用契約を既に5回更新している有期契約労働者がいます。
この労働者が,平成25年4月1日に無期労働契約への転換を申し込んできた場合,この労働者については,無期労働契約への転換が認められますか。
改正労働契約法18条は,①有期労働契約を2回以上締結し,かつ,②通算の契約期間が5年を超える場合に,無期労働契約への転換を申し込むことができると規定しています。
この場合の「通算の契約期間」とは,改正労働契約法18条が施行される平成25年4月1日以降の契約期間を指すのであって,それまでの契約期間が何年であろうと「通算契約期間」に入りません。
したがって,平成25年4月1日時点で無期労働契約への転換を申し込んでも,無期労働契約への転換は認められません。
イ プロジェクトの延期と通算契約期間
あるプロジェクトのために労働者を5年間の有期契約で雇用したところ,地震が発生して業務が停止してしまい、プロジェクトの完成が延期したため,やむなくこの労働者との契約を1年間だけ更新しました。この場合であっても,無期労働契約への転換権は認められますか。
天災のように,使用者側に責任が全くない事情による延長であっても「通算契約期間」に算入されると考えられています。今回の場合,この労働者は,更新により通算して6年間働いているため,「通算契約期間」は5年を超えるので,転換権が認められます。
企業においては,特定のプロジェクトのためだけに労働者を雇用するということがあります。その場合に大切なことは,①当初の有期労働契約を締結する際に,②業務が今回のプロジェクトのみに限定されることを契約書や就業規則に明記し,かつ,その内容を労働者に確認させて合意を得ておくことです。
そうすることによって,労働者側に予測可能性を与えることができ,後々の紛争を防ぐことができます。
ウ 役職の変更と通算契約期間
当社には,2年契約の非常勤職員として4年間,1年契約の常勤職員として3年間勤務した者がいます。この者の通算契約期間は何年間と計算されますか。
非常勤として4年間,常勤として3年間ですから,各々の契約期間を独立させて見ると,5年を超えません。しかしながら,通算契約期間を計算する上では,職務内容や役職名の違いは考慮されませんので,非常勤としての契約期間も,常勤としての契約期間も,ともに「通算契約期間」としてカウントされます。
したがって,この労働者の通算契約期間は,非常勤としての4年間と,常勤としての3年間を合計した7年間と計算されます。また,ずっと非常勤として勤務し,その通算した契約期間が5年を超えた場合であっても,「通算契約期間」が5年を超えたものとして計算されます。
エ 通算契約期間と空白期間
当社には,1年契約を2回更新した後に退職した職員がいます。本校では,この職員を,退職から1年後に2年契約で雇用することとし,先日,この契約を1回更新しました。この職員の通算契約期間はどうなりますか。
一度退職した職員を再雇用した場合,前の契約期間と今回の契約期間との間に,幾らかの空白期間が生じます。この空白期間が6か月未満であれば,前の契約期間も「通算契約期間」に入りますが,空白期間が6か月以上となった場合には,前の契約期間はいわばリセットされて,「通算契約期間」に入らなくなります。
今回の職員について見ると,前の契約期間(3年間)と,今回の契約期間(4年間)との間に,1年間の空白期間が生じていますので,前の契約期間(3年間)は「通算契約期間」に入りません。
したがって,この職員の「通算契約期間」は,今回の契約期間である4年間として計算されます。なお,この空白期間は,原則として6か月間継続していなければならず,細切れの空白期間を合算して6か月間とすることは,例外はあるものの,基本的には認められていませんので,注意しましょう。
オ 育児休業等と空白期間
育児休業や介護のための休業,研究のための休職も空白期間に当たりますか。
いわゆる「空白期間」は,雇用契約が終了している場合をいいますが,育児休業中や介護休業中,研究のための休職中は,雇用契約自体は維持されています。したがって,これらの期間は「空白期間」には当たらず,「通算契約期間」に算入されます
(4) 転換権
ア 転換が認められる始期
平成25年4月1日付けで3年間の有期労働契約を締結し,平成28年4月1日付でこの契約を更新したとします。この場合,無期労働契約への転換権が発生するのは,最初の契約期間開始から5年を超えた平成30年4月1日ですか。
平成28年4月1日時点で3年間の有期労働契約を更新した場合,最初の3年間と合わせれば6年となり,通算契約期間は5年を超えることになります。この場合,転換権が発生するのは,5年を超えることとなる契約の開始時期,つまり,平成28年4月1日になります。
この事例を少し変えて,最初の契約期間も更新後の契約期間も2年半ずつだったとしましょう。その場合,平成30年3月31日時点では通算契約期間がちょうど5年であって,まだ5年を超えてはいません。そうすると,この労働者に転換権が発生するのは,更にこの契約を更新した平成30年4月1日時点となります。
イ 兼業
甲は,A社において正規職員として雇用される一方,B社において有期労働契約者(非常勤講師)として雇用されています。
A社においては,他の使用者の下で働いている労働者との無期労働契約を締結することを就業規則で禁じています。この場合,甲は,B社において無期労働契約への転換権が認められますか。
A社の就業規則はA社での問題であって,B社における転換権には関係がありません。B社での雇用契約が更新されて「通算契約期間」が5年を超えたならば,B社における転換権は認められます。
ウ 無期労働契約転換権の放棄
私は,ある会社に勤務する者です。私が現在の会社に雇用されるに当たり,会社側から求められて,「私は,通算契約期間が5年を超えた場合であっても,無期労働契約への転換権を行使しません。」といった内容の念書に署名しました。私は,転換権を行使することはできませんか。
無期労働契約への転換権を放棄することは許されませんので,転換権を放棄するという合意は無効となります。したがって,この念書にもかかわらず,無期労働契約への転換権を行使することができます。本問と同様,契約更新時に,転換権不行使の条件を付した契約をした場合,この条件は無効となります。
エ 転換権行使期限の定め
就業規則に「無期労働契約への転換権行使は,契約期間満了の30日前までに行うこと。」という定めがありますが,この定めに反し,例えば,契約期間満了の前日に転換権を行使した場合,転換は認められますか。
法律上,いつまでに行使しなければならないという制約がありません。したがって,期間満了の前日であっても転換権行使は認められると考えられています。
オ 転換権行使の効果-労働条件の変更
ある会社に勤務する非常勤職員が,改正労働契約法18条に基づいて無期労働契約への転換を申し込み,これが認められた場合,この職員は常勤職員となりますか。
転換が認められた場合の労働条件は,転換前と「同一の労働条件」(労働契約法18条1項)となりますので,非常勤職員だった者が転換により自動的に常勤職員となるわけではありません。従前の労働条件を変更するためには,その旨の契約を別途締結する必要があります。
カ 転換権行使の効果-定年の扱い
有期労働契約上,定年を設けていなかった場合に,改正18条に基づいて転換が認められ,労働条件が従前と同じとなった場合,定年と労働契約期間との関係はどうなりますか。
従前と同じ条件,つまり定年の定めのない条件で契約が成立しているため,定年になっても無期労働契約は終了しないと考えられています。
(もっとも,このように考えると,その労働者が死亡するまで契約関係が継続することになりかねず,非現実的です。こうした立法・解釈は将来的には見直される可能性があるでしょう。)。
また,就業規則で65歳を定年としている場合において,既に65歳に達した有期労働契約者が無期労働契約への転換権を行使したとき,定年を理由として転換を認めないとか,契約期間終了ということにはできないと考えられています。
そこで,こうした事態を避けるためには,「転換権を行使した場合には定年を○歳とする。」といった取決め・合意をしておくことが必要です。
キ 転換権の不行使
平成25年4月1日以降,有期労働契約を反復更新して通算期間が5年間を超えた場合,自動的に無期労働契約へと移行しますか。
無期労働契約に転換するためには,転換権を取得した上,転換を申し込む必要があります。したがって,申込がない場合にまで自動的に無期労働契約へと移行することはありません。
(5) 改正労働契約法19条の概要
企業側として,無期労働契約への転換を防ぎたい場合には,通算契約期間が5年ちょうどになった時点で,その労働者との契約を打ち切ればよいのでしょうか。
確かに,既に説明したとおり,5年を超えて有期労働契約が更新されると改正18条が適用されますので,有期労働契約を更新したとしても,通算契約期間を5年以内に収めることができれば,改正18条は適用されないこととなります。
ただし,雇用契約をむやみに終了させようとすると,改正労働契約法19条の規制に抵触する場合があります。というのも,改正19条によると,有期労働契約を何度も更新し,
①無期労働契約と実質的に同視することができる状況にある場合。
②その労働者が「今後もずっと契約が更新されるだろう。」と合理的に期待するような状況にある場合。
には,その労働者との契約更新をストップすることが制約されるのです。
ですから,例えば,更新回数の上限が就業規則等に明記されていないとか,明記されてはいるものの,実際には例外的な運用が行われている,あるいは,労働者に今後の更新を期待させるような言動をしてしまうといった場合には,改正19条によって契約打切りが認められない可能性が出てきます。
(6) 改正18条・19条に抵触しないための方策
企業側として,改正18条・19条に抵触しない形で職員との雇用契約を終了させたい場合,どのようにすべきですか。
改正18条・19条に,企業側としてどのように対処するかは,今後の議論や裁判例の集積によって確かな方法が確立してゆくでしょうが,現時点では,次のような方法が考えられるでしょう(当事務所としてお勧めする趣旨ではありませんのでご注意下さい。)。
①今後有期契約で雇用する場合
今後,職員を有期労働契約によって雇用しようとする場合には,雇用契約を締結する際に,長期雇用ができないことを職員側にしっかりと伝えておくことが大切です。
そこで,ア)企業の就業規則により,有期契約で雇用する職員の更新回数・雇用期間の上限をしっかりと明記する,イ)更新回数・雇用期間の上限に例外を設けない,ウ)アイの内容につき,相手方(職員)の同意を確実に得る,エ)空白期間を設ける場合には,連続して6か月以上にする,といった方法が考えられます。
例えば,当初の契約期間を2年半とし,その契約期間が終了して,それを更新しようとする際,「今回の契約更新が最後である。」旨を契約書に明記しておいて,相手方の同意を得ておきます。
こうすれば,通算契約期間が未だ5年ちょうどですから転換権は発生せず,しかも,改正19条の制約を受けずに雇用を打ち切ることができる可能性があります。
②退職職員を再雇用する場合
一旦退職した職員を再雇用する場合には,空白期間を設けることにより従前の通算契約期間をリセットさせるため,退職後,連続して6か月を経過してから再雇用する方法が考えられます。
③既に雇用している有期契約職員の場合
既に雇用している有期契約職員の場合,平成25年4月1日以降の通算契約期間が5年を超える可能性が①②に比べて高いわけですから,企業側が職員からの転換権行使を望まないのであれば,5年を超えないうちに契約を終了させる必要があります。
ただし,職員に長期雇用を期待させるような言動をしたり,無期契約職員との職務内容等に差異がなかったりすると,契約を終了させようとしても,改正19条に抵触してしまいますので,「定年までいてください。」「○○さんとの契約はずっと更新させていただきたい。」
などと,長期雇用に期待を持たせるようなことを言わない,無期契約職員と職務内容・勤務時間等に差異を設けるといった方法が考えられます。
自社に当てはめた時にどうなるか知りたい方は、湊総合法律事務所までご相談ください。
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