パタニティ・ハラスメント(パタハラ)対策
タイトル..
企業における男性従業員の育児休業取得について
1.パタハラとは?
パタハラとは、マタニティ・ハラスメントの略語、マタハラの父性版で、パタニティ(Patanity:父性)・ハラスメントを意味し、男性従業員の育児休業制度取得等に関して、上司や同僚らからのいやがらせや圧力等の行為をいいます。
具体的にパタハラと言われる行為には、以下のような周囲の発言や人事などが該当します。
・男性従業員の育児休業の申請を認めない
・男性従業員の育児休業の申請に対し、「他の従業員に迷惑が掛かってしまうと思わないか?」などという発言をする
・育児休業明けの男性従業員に対し、配置転換や異動、降格などを行う など
2.パタハラが起こる背景
パタハラ問題が挙げられる要因の一つに、育児は女性が行うものであり、男性は子供が産まれても休まず仕事をすべきであるという意識的または無意識的な偏見(アンコンシャス・バイアス)が背景にあります。
そして、企業側としては、男性従業員に育児休暇を取得しやすい環境を整えたいという理想は持っていても、育児休暇中のポストをどのように埋めるかなど、多くの課題を抱えることとなり、そこにこうした偏見が作用してパタハラにつながってしまっているものと考えられます。
3.男性の育児は日本の将来のためにも重要!
~男性の育児休業取得率について~
厚生労働省が掲げるサイト「育MENイクメンプロジェクト」(https://ikumen-project.mhlw.go.jp/)を参照するとこのように書かれています。
『積極的に子育てをしたいという男性の希望を実現するとともに、パートナーである女性側に偏りがちな育児や家事の負担を夫婦で分かち合うことで、女性の出産意欲や継続就業の促進にもつながります。
また、急速に進む少子化の流れから、年金や医療などの社会保障制度が立ち行かなくなってしまうという危機的な状況にあり、次世代を担う子どもたちを、安心して生み育てるための環境を整えることが急務となっています。その環境整備の一環として、育児休業制度などの充実をはかり、男女ともに育休取得の希望の実現を目指しているのです。』
最終的な目標として、厚生労働省の提言では、令和2(2020)年を13%、令和7(2025)年を30%としています。
現状として令和元(2019)年度の男性取得率は7.48%となり、目標は達成されておりませんが、前年度と比較すると平成30(2018)年度6.16%から大きな上昇を見せていることがわかります。政府の呼びかけが契機となり、男性の育児休業についての見直しが図られていることがわかります。
このように男性の育児は、日本の将来のためにも重要な意義を有するものです。パタハラは何としても撲滅していかなければなりません。
4.パタハラに関する法的規制
(1)育児介護休業法10条と指針
育児介護休業法10条には、「事業主は,労働者が育児休業申出をし,又は育児休業したことを理由として,当該労働者に対して解雇その他不利益な取り扱いをしてはならない」と定め、育児休業に関する不利益取り扱いを禁止しています。
またここでいう「解雇その他不利益な取り扱い」について、厚生労働省は、事業主が講ずべき措置についての指針を策定しています(平成21年厚生労働省告示第509号、以下「指針」)。指針は、「解雇その他不利益な取り扱い」とは、「労働者が育児休業等の申出等をしたこととの間に因果関係がある行為」であるとし、その例として、「不利益な配置の変更を行うこと」、「就業環境を害すること」等をあげています。
※指針:
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/3_0701-1s_1.pdf
(2)「不利益な配置の変更」とは
指針は、配置の変更が「不利益な取扱い」に該当するか否かは、配置の変更前後の賃金その他の労働条件、通勤事情、当人の将来に及ぼす影響等諸般の事情について総合的に比較考量の上、判断すべきものとしています。
そして、例えば、通常の人事異動のルールからは十分に説明できない職務または就業の変更を行うことにより、当該労働者に相当程度経済的または精神的な不利益を生じされることは、「不利益な配置の変更を行うこと」に該当するとしています。また、所定労働時間の短縮措置の適用について、当該措置の対象となる業務に従事する労働者を、当該措置の適用を受けることの申出をした日から適用終了予定日までの間に、労使協定により当該措置を講じないものとしている業務に転換させることは、「不利益な配置の変更を行うこと」に該当する可能性が高いものとしています。
(3)「就業環境を害すること」とは
指針は、業務に従事させない、専ら雑務に従事させる等の行為は、「就業環境を害する行為」に該当するものとしています。
5.企業側のパタハラ対策
(1)指針の要件の該当性を慎重に判断する
企業における労働問題の多くは、企業側が人事の発令について、法律や通達、判例などを考慮せずに「何となく」行ってしまうことから発生してしまっていることが多くあります。
上述のように、厚生労働省は育児介護休業法10条に関し、指針を明らかにしているのですから、まずは男性従業員が、育児休業を申し出、または休業を取得した際の企業側の対応が、上述した不利益取り扱いまたは就業環境を害することに該当しないかを慎重に判断することが重要です。そしてこれは専門的判断にも属しますから、弁護士に相談しつつ判断していくことが妥当だと考えます。
(2)社内で男性の育児休業についてコミュニケーションの機会を設ける
育児休業を取得する従業員と経営者や人事などの部門が、復帰後の考えを共有することも、トラブル発生を防止する一つの方法でしょう。
また育児休業取得を希望する従業員に対しては、復帰後の配属先など従業員が不満を感じないように、育休明けの配置や処遇についての選択肢を予め伝え、本人の理解を得た上で育児休業期間に入ることで問題化を防ぐこともできるでしょう。同時に当該従業員の同僚や上司にも、同様のケアが有効だと考えられます。
こちらは問題を事前に防ぐために、企業側から先手を打つことができるリスクヘッジでありながら、コミュニケーションの機会を作るという比較的取り組みやすい対策です。
(3)育児休業制度を明示する
育児休業制度をしっかり構築することも、パタハラ対策として大切です。社内規定として、育休制度について組織としてどう扱っているか、従業員に共有しましょう。
男性の育児休業取得の権利が女性と同様にあることも改めて示し、従業員に理解してもらうことで、パタハラ等の周囲からのネガティブな反応を減らすことにつながるでしょう。制度についてご不安やご不明点があれば、是非、弁護士に相談してください。
(4)イクメンアワード等への参加
厚生労働省が呼び掛けている「イクメンプロジェクト」へ参加するのも対策として期待できるでしょう。
男性の育児と仕事の両立を積極的に推進する企業や上司を表彰するプロジェクトに参加することにより、社内の男性の育児参加への意識を高め、さらには社外の評価を得ることにつながるでしょう。
6.まとめ
今後の日本社会において、社会貢献を従業員に示す企業、男女問わず子育てのしやすい環境を整えた企業が、良い従業員を集め、最終的には高い企業価値を獲得することに繋がります。
パタハラ問題というのは周りの理解が低いこともあり、問題化したときの対応に不安を感じられる経営者の方もおられると思います。
法的観点からの育児休業取得に関する制度の整備・リーガルチェックや実際に問題が起きそうな状況、起きてしまったときの対応等、弁護士が力になれる場面は多々ありますので、是非お気軽にご相談ください。
お困りの方は湊総合法律事務所までご相談ください。
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