取締役会決議の瑕疵と無効事由について(特別利害関係取締役が参加した取締役会決議の効力)研究しました。

判例研究

取締役会決議の瑕疵と無効事由について(特別利害関係取締役が参加した取締役会決議の効力)研究しました。

令和3年3月17日(水)に取締役会決議の瑕疵と無効事由について(特別利害関係取締役が参加した取締役会決議の効力)研究しました。

日時 令和3年3月17日(水)
場所 湊総合法律事務所
報告者 弁護士 島村 光
内容 取締役会決議の瑕疵と無効事由について(特別利害関係取締役が参加した取締役会決議の効力)

第374回 判例・事例研究会

日時 令和3年3月17日

場所 湊総合法律事務所

報告者 弁護士 島村 光

【判例】

事件の表示 最判平成28年1月22日
事案の概要 高知県安芸郡東洋町が,台風被害に遭った漁業者の所属する町内の漁業協同組
合(以下「本件漁協」という。)に対し,町の規則(以下「本件規則」という。)
に基づき 1000 万円を貸し付けたこと(以下「本件貸付け」という。)につき,同
町の住民である原告が,本件貸付けに係る支出負担行為等が違法であると主張し
た住民訴訟の事案。
本件規則には,貸付けの要件として,当該資金の借入れにつき漁業協同組合の
理事会において議決されていることが定められていた。そして、漁業協同組合の
理事会の議決について定める水産業協同組合法37条2項には、会社法369条
2項と同じく、理事会の議決について特別の利害関係を有する理事は議決に加わ
ることができない旨が定められている(両者の規定の解釈は共通するものと考え
られている)。
本件漁協は,東洋町に対し,本件規則に基づき,1000 万円の貸付けを受ける旨
の申請(以下「本件申請」という。)をした。これに先立ち,本件漁協は,理事
8 名のうち 6 名が出席した理事会において,全会一致で,東洋町に対し本件申請
をする旨の議決(以下「本件議決」という。)をしたが,上記の出席した理事 6
名には,本件申請に係る被害漁業者の経営者及び同人の子が含まれていた。
本件申請に基づき,本件漁協に対する本件貸付けが行われた。そして,本件漁
協は,本件貸付けに係る金員を原資として,上記被害漁業者の経営者の子に対し,
1000 万円を融資した。
争点 特別の利害関係を有する理事が参加した理事会決議の効力
(理事会決議が無効であれば、本件貸付けには本件規定違反という違法性が認
められることになる)
結論 理事会決議は有効。
判旨 「水産業協同組合法37条2項が,漁業協同組合の理事会の議決について特別の
利害関係を有する理事が議決に加わることはできない旨を定めているのは,理事
会の議決の公正を図り,漁業協同組合の利益を保護するためであると解されるか
ら,漁業協同組合の理事会において,議決について特別の利害関係を有する理事
が議決権を行使した場合であっても,その議決権の行使により議決の結果に変動
が生ずることがないときは,そのことをもって,議決の効力が失われるものでは
ないというべきである。
そうすると,漁業協同組合の理事会の議決が,当該議決について特別の利害関
係を有する理事が加わってされたものであっても,当該理事を除外してもなお議
決の成立に必要な多数が存するときは,その効力は否定されるものではないと解
するのが相当である(最高裁昭和50年(オ)第326号同54年2月23日第
二小法廷判決・民集33巻1号125頁参照)。」
関係条文 (取締役会の決議)
第三百六十九条
取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数(これを上回る
割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)が出席し、その過半数(こ
れを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行う。
2 前項の決議について特別の利害関係を有する取締役は、議決に加わることが
できない。
補足 1 役会決議に手続上の瑕疵がある場合の基本的な考え方(近年の学説の傾向)
取締役会決議に手続上の瑕疵がある場合、決議は原則として無効。
もっとも、取締役会が会議を開いて討議・評決を行うことが求められている趣
旨は、取締役相互の協議と意見の交換によりその知識と経験を結集し、取締役会
の権限行使を慎重かつ適切ならしめる点にある。
したがって、手続上の瑕疵がある場合でも、上記の趣旨が損なわれない特段の
事情=当該瑕疵がなくても決議の結果に影響がない(多数決の結果に変動がない
ことだけではなく、瑕疵がなかった場合と比べて取締役の判断に不当な影響が及
ぼされていないことをも含む)と認めるべき特段の事情がある場合には決議が有
効となる余地がある。
2 本判決の読み方

A 緩和説
多数決の結果さえ変わらなければ決議を有効とする見解(素直な読み方)
B 厳格説
上記の基本的な考え方に基づき、多数決の結果の変動だけではなく、他の取締
役の判断に不当な影響力を及ぼしたと認められる事情も考慮する見解(近年の学
説の傾向)
3 最判昭和44年12月2日(百選判例)
(1)判旨
「取締役会の開催にあたり、取締役の一部の者に対する招集通知を欠くことによ
り、その招集手続に瑕疵があるときは、特段の事情がない限り右瑕疵のある招集
手続に基づいて開かれた取締役会の決議は無効になると解すべきであるが、この
場合においても、その取締役が出席してもなお決議の結果に影響がないと認める
べき特段の事情があるときは、右の瑕疵は決議の効力に影響がないものとして、
決議は有効になると解するのが相当である」
(2)類型別会社訴訟解説
「上記特段の事情の認定が問題となるが、単純に通知を受けなかった取締役を反
対票に加えるといったものでは足りない。少人数の会議体では、人的意見が重視
されることに鑑みれば、招集通知を受けなかった取締役が他の取締役との関係で
取締役会において占める実質的影響力、その取締役について予想される意見、そ
の取締役の立場と決議の内容との関係などから判断して、招集通知を受けなかっ
た取締役の意見が決議の結果を動かさないであろうことが確実に認められるよ
うな場合には、もはや会社が招集手続の瑕疵を理由に決議を無効とする利益を有
しないといえることから、上記特段の事情が認められるものと解される」
4 東京高判令和元年12月5日(取締役会に取締役以外の者が参加していた場
合の役会決議の効力)
「C弁護士については、議長になったAが同弁護士を同席させる旨述べていると
ころ、同弁護士の発言は取締役の発言の趣旨を確認した上で議論を整理し、取締
役からの質問に対してAが特別利害関係人に該当するなど法律的な観点からの
補助を行うに留まっていることからすると、議長の履行補助者とみることができ
るのであって、C弁護士が出席、発言したことによって、本件取締役会決議が当
然に無効になるということはできない。」
「Yの取締役会においては、もともと…対立があったものと認められるから、B
及びC弁護士の同席や発言によってこの状況に変化が生じ得るものではなかっ
たと認められる上、本件取締役会において、Yの取締役の中にB及びC弁護士の同席、発言によって見解を改めた者がいたことをうかがわせる証拠も見当たらな
い。」→役会決議は有効。

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