判例研究
株式買取請求に係る 「 公正な価格 」について研究しました
令和3年11月10日(水)株式買取請求に係る 「 公正な価格 」について研究しました。
日時 | 令和3年11月10日(水) | |
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場所 | 湊総合法律事務所 | |
報告者 | 弁護士 沖 陽介 | |
内容 | 株式買取請求に係る 「 公正な価格 」について研究しました |
第388回 判例・事例研究会
日時 令和3年11月10日
場所 湊総合法律事務所
報告者 弁護士 沖 陽介
【事例】
グループ会社間(X 社と Y 社)で吸収合併を行う予定であるが、反対株主から株式買取請求権
を行使されることが予想される。話し合いにより価格を決定することができなかったときの「公
正な価格」はどのように算定されるか。
なお、本件は簡易吸収合併及び略式吸収合併はできない事案である。また、消滅会社 Y には
わずかな売上しかなく、吸収合併をしない場合は清算する予定であった。
【条文】
会社法第 785 条(反対株主の株式買取請求)
吸収合併等をする場合(次に掲げる場合を除く。)には、反対株主は、消滅株式会社等に対
し、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができる。
【判例・裁判例】
1 最判 H23.4.26 民集 236 号 519 頁
「会社法782条1項所定の吸収合併等によりシナジー(組織再編による相乗効果)その他の企
業価値の増加が生じない場合に、同項所定の消滅株式会社等の反対株主がした株式買取請求に係
る「公正な価格」は、原則として、当該株式買取請求がされた日における、吸収合併契約等を承
認する旨の株主総会の決議がされることがなければその株式が有したであろう価格をいう。」
2 東京地決 H21.10.19 ジュリスト 1418 号 128 頁
「清算会社を吸収合併消滅会社とする吸収合併において、同社の株主が株式買取請求権を行使し
た場合、当該株式の「公正な価格」は、特段の事情がない限り、吸収合併の効力が確定的に生じ
る吸収合併の効力発生日における清算会社の客観的価値、すなわち、吸収合併がなければ有すべ
き清算価値、又は、吸収合併を前提とした清算価値に基づいて算定するのが相当である。」
3 札幌地決 H26.6.23 金融・商事判例 1466 号 15 頁
本件合併は,グループ企業内での組織再編としての意味合いが強く,シナジー効果が生じたと
する事情はないとして,事業継続を前提にしたインカム・アプローチである利益還元法1による
評価を妥当とし,株式の一株当たりの公正な買取価格を80円と定めた。
4 東京高決 H28.9.14 判タ 1433 号 134 頁
専門委員の意見に基づき DCF 法2による評価を基礎とし純資産法3による評価も考慮して株式の
買取請求に係る公正な価格が決定された事例
以上
1 収益(利益)還元法:その会社の事業から将来的に生み出される価値を現在価値に割り引いて
株式価格を決定する方法
2 DCF 法:収益還元法の一種
3 純資産法:資産と負債の差額である純資産をもって株価を計算する方法(簿価純資産法 or 時
価純資産法)