判例研究
コンビニエンスストア本部によるフランチャイズ契約の解除が認められた事例(控訴中)について研究しました。
令和4年9月21日(水)コンビニエンスストア本部によるフランチャイズ契約の解除が認められた事例(控訴中)ついて研究しました。
日時 | 令和4年9月21日(水) |
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場所 | 湊総合法律事務所 |
報告者 | 弁護士 横田 将宏 |
内容 | コンビニエンスストア本部によるフランチャイズ契約の解除が認められた事例(控訴中)について研究しました。 |
第398回 判例・事例研究会
日時 令和4年9月21日
場所 湊総合法律事務所
報告者 弁護士 横田 将宏
【判例】
事件の表示 事 件 名 建物引渡等請求事件(第1事件) 契約上の地位確認等請求事件(第2事件) 事件番号 大阪地方裁判所 令和2年(ワ)第341号 外1件 判決日付 令和4年6月23日 |
判示事項 コンビニエンスストア本部によるフランチャイズ契約の解除は、加盟店側の異常な接客対応やSNS上での本部に対する誹謗中傷を理由とするものであり、加盟店側が時短営業(非24時間営業)を強行したことを理由とするものではなく、優越的地位の濫用にも当たらないとして、建物の引渡し及び約定の損害賠償金等の支払を求める本部側の請求を認容し、契約上の地位確認等を求める加盟店側の請求を棄却した事例 |
事案の概要 被告は、コンビニエンスストアのフランチャイザーである原告との間で、コンビニのフランチャイズ契約を締結し、加盟店として、店舗建物(本件建物)において、セブン-イレブンを経営していた。第1事件の請求は、原告が、被告の異常な顧客対応及びSNSにおける原告に対する誹謗中傷行為を理由としてフランチャイズ契約を解除したとして、被告に対し、(1)所有権に基づく本件建物の引渡し、(2)フランチャイズ契約の解除に伴う約定の損害賠償金1450万8024円及びこれに対する解除日から支払済みまで商事法定利率年6%の割合による遅延損害金の支払(3)本件建物の所有権侵害による不法行為に基づく賃料相当損害金の支払を求める事案である。第2事件は、被告が、(1)原告によるフランチャイズ契約の解除は無効であると主張して、原告に対し、被告が加盟店契約上の当事者の地位にあることの確認、(2)24時間営業の要請に従わないことを理由とするフランチャイズ契約の解除が優越的地位の濫用に当たると主張して、独占禁止法24条に基づく侵害停止請求権又は侵害予防請求権に基づき、原告による取引拒絶の排除等を求める事案である。 |
事実及び理由(抜粋) 2 争点1(被告の顧客対応が本件基本契約4条2項4号、5条3号に違反し、同46条2項1号、2号の解除事由に該当するか、被告の本件各投稿が同46条2項1号、2号の解除事由に該当するか)について (1) 被告の接客対応について ア ・・・これらの事実によると、原告は、被告との間で、本件基本契約により、被告が原告及び加盟店全体のブランドイメージを保つ責務を負うことを前提に、フレンドリーサービスを含む基本四原則の徹底が、原告及び加盟店全体の信用及び信頼を基礎づける重要な事項であると位置付け、そのことを被告との間で認識共有し、被告が本件基本契約に関する重大な違背をした場合には解除事由があるものとして、本件基本契約を解除することができる旨を定めた(本件基本契約46条 2項1号、2号)ものということができる。 イ そこで、以上を前提に、本件店舗における被告の接客対応をみるに、前提事実及び認定事実のとおり、本件店舗では、①少なくとも、被告の利用客に対する注意から口論になり、被告が利用客又はその車に対して有形力を行使したのが・・・(6回程度)にあったこと、②上記①以外にも、被告は、少なくとも平成28年から令和元年にかけて、接客に際し、反復継続して、利用客に対し、乱暴な言動や侮蔑的な話し方をして、利用客からお客様相談室に対し、苦情が申し立てられ、その中には、被告の言動が原告のブランドを傷つけるとの指摘をするものがあったこと・・・、③本件店舗に関し、内部連絡票が作成された苦情申立ての件数は、本件店舗の近隣のセブン-イレブンの店舗に対する苦情申立て(内部連絡票が作成されたものに限らない。)に比べると、群を抜いて多く、また、布施警察署に対する通報件数も上記近隣店舗より極端に多いこと・・・が認められる。これらの事実によると、被告の上記の接客対応は、通常の接客対応の範囲を超え、原告が重視している基本四原則のうちのフレンドリーサービスを逸脱しており、原告のブランドイメージを低下させるものといわざるを得ない。そうすると、被告の接客対応は、本件基本契約5条3号に該当し、本件基本契約46条2項1号、2号の解除事由に当たるというべきである。・・・ 3 争点2(原被告間の信頼関係が破壊されたといえるか)について (1) 前提事実及び認定事実によると、本件基本契約の契約期間は15年間で あり、その後も契約延長や契約更新が予定されていること(前提事実(2)イ(4 2条)からすると、本件基本契約は相当長期間にわたって継続することが予定され ていたものと考えられる。そして、本件店舗は、平成24年2月に開業し、本件催 告解除がされた令和元年12月31日時点で、契約の残存期間が約8年あり、フラ ンチャイジーである被告は、本件店舗の開業に当たり、原告に対して開業時出資金 等として255万円を支出し、その他、商品の仕入れ費用等として約800万円の 初期費用を負担したというのである(認定事実(3)ア)。 3 これらの事情に照らすと、本件基本契約46条に基づいて本件基本契約を解除できるのは、単に被告が本件基本契約上の義務に違反しただけでは足らず、それが本件基本契約の趣旨、目的等に照らして、原被告間の信頼関係を破壊したと評価できるやむを得ない事情があることが必要と解するのが相当である。 (2)これを本件についてみるに、・・・被告は、2月1日付け通知書を交付さ れる以前より、原告の担当者から、継続的に接客対応に関する注意を受け、2月1 日付け通知書により、被告の接客対応の改善を求められたにもかかわらず、自らの 接客対応を顧みることなく、これを利用客に責任転嫁し、令和元年8月には、U取 締役から接客対応の改善に注意喚起をされたのに、本件解除通知書を受領するま で、接客対応を改めなかったというのであるから、このような一連の被告の対応 は、基本四原則の徹底による原告の全国的なブランドイメージを確保するという本 件基本契約の根本部分を損なうものであって、原被告間の信頼関係を破壊するもの であるというべきである。加えて、前記2で説示したとおり、本件各投稿は、その 内容に鑑みると、原被告の間の信頼関係を破壊するものといえる。 そうすると、本件では、本件催告解除時点において、原被告間の信頼関係 を破壊したと評価できるやむを得ない事情があるというべきである。 ・・・ 5 争点5(原告による解除が権利の濫用又は優越的地位の濫用に当たるか)に ついて (1)権利の濫用について 上記3(3)で説示したとおり、原告は、2月1日付け通知書において、 時短営業を継続すると本件基本契約を解除する意向を表明していたものの、その 後、被告の時短営業を容認する方向に転じ、被告との間で時短営業を認める契約変 更をする意向を示していたが、被告がこれに応じず、本件催告解除に至ったもので ある。 ・・・ したがって、本件催告解除が権利の濫用に当たるということはできず、他 にこれを基礎付ける事実を認めるに足りる証拠はないから、この点に関する被告の 主張は採用することができない。 (2) 優越的地位の濫用について 本件催告解除に至った経緯は上記(1)で説示したとおりであり、本件催 告解除は、原告がフランチャイザーの地位にあることを利用して、被告の時短営業 を拒絶するためになされたものではなく、他に本件催告解除が優越的地位の濫用に 当たることを基礎付ける事実を認めるに足りる証拠はないから、この点に関する被 告の主張は採用することができない。 6 争点6(本件基本契約解除による約定の損害賠償金の額及び本件建物の占有 による損害額)についての判断 (1)約定の賠償金について 4 上記のとおり、本件催告解除は有効であるから、被告は、本件基本契約4 8条1項に基づき、本件店舗における過去12か月分の実績に基づく6か月分の売 上総利益の50%相当の賠償金の支払義務を負う。 認定事実(4)ア(イ)のとおり、本件基本契約が解除される直近1年間 の売上総利益は、別紙4「損害額計算表」の「当月売上総利益」欄記載のとおりで あるから、被告は原告に対し、1450万8024円の賠償義務を負う。 もっとも、本件基本契約において、上記賠償金の支払時期に関する定めは ないから、上記賠償金に対する遅延損害金の始期は、原告の請求によって遅滞に陥 ると解すべきであるから(平成29年法律第44号による改正前の民法412条3 項)、本件第1事件の訴状の送達日の翌日である令和2年2月4日となる。 (2)本件建物の引渡し 被告は、本件基本契約49条3項及び52条2号に基づき、本件建物から 退去し、原告に対し、これを返還すべき義務を負う。 (3)所有権侵害による損害賠償 被告は、令和元年12月31日以降も原告が所有する本件建物を占有して いるから、これにより原告に生じた損害の賠償責任を負う。 原告は、被告の本件建物の占有により、本件建物におけるコンビニエンス ストアの営業が不能になったから、その損害額は、被告が本件建物で営業したとき に原告が取得するセブン-イレブン・チャージ相当額と同額とみるのが相当であ る。 認定事実(4)ア(イ)のとおり、平成30年12月から令和元年11月 にかけて、本件店舗の営業により原告が取得していたセブン-イレブン・チャージ の額は、別紙5「当月のセブン-イレブン・チャージ」欄記載のとおりであるか ら、1日あたりの損害額は11万0321円とみるのが相当である。 したがって、被告は、原告に対し、令和元年12月31日から本件建物の 引渡済みまで、1日当たり11万0321円の支払義務を負う。 7 争点7(被告に独占禁止法24条に基づく侵害停止請求及び侵害予防請求が あるか)について 前記5説示のとおり、原告は、有効な本件催告解除により被告との取引を拒 絶したものであるから、原告の取引拒絶に不当性(独占禁止法2条9項5号ハ、同 6号ホ、公正取引委員会告示第15号2項)を認めることはできない。 そうすると、本件における原告の行為は、不当な取引拒絶には当たらず、被 告には、独占禁止法24条に基づく侵害停止請求権及び侵害予防請求権を認めるこ とはできず、この点に関する被告の請求は理由がない。 |
以上