判例研究
副業による長時間労働と安全配慮義務違反について研究しました。
令和5年4月19日(水)「副業による長時間労働と安全配慮義務違反」について研究しました。
日時 | 令和5年4月19日(水) |
---|---|
場所 | 湊総合法律事務所 |
報告者 | 弁護士 久保 真衣子 |
内容 | 副業による長時間労働と安全配慮義務違反について研究しました。 |
第403回 判例・事例研究会
日時 令和5年6月14日
場所 湊総合法律事務所
報告者 弁護士 久保 真衣子
事件の表示 | 事 件 名 地位確認等請求控訴事件 事件番号 令和3年(ネ)第2534号 決 定 原判決一部変更・一部容認(確定) 大阪高判令和4年10月14日 |
事案の概要 | Y₁(被告・被控訴人)は、給油所の運営委託業務等を行う株式会社である。セルフ方式による 24 時間営業の給油所を運営するA株式会社(以下「A」という。)および訴外株式会社F(以下「訴外F」という。)は、給油所の夜間運営業務をD株式会社(以下「D」という。)に委託し、DはこれをY₁に再委託した。Eは、DからY₁に出向して給油所運営業務のエリアマネージャーを務めていた。 X(原告・控訴人)は、平成 26 年 2 月 1 日にY₁との間で労働契約を締結し、給油所において深夜早朝時間帯での就労をしていたところ、同月 21 日にAとも労働契約を締結し、深夜早朝以外の時間帯にも就労するようになった。その結果、Y₁を欠勤するようになった日の前日までの 1 か月のY₁およびAに係る合計の労働時間は 303 時間 45 分、欠勤前 2 か月は 270 時間 15 分、欠勤前 3 か月は 271 時間で、同年 1 月 26 日を最後にそれ以降休日が全くない状態となった。なお、Y₂(被告・被控訴人)はAを吸収合併し、その権利義務を承継した。 Y₁は、平成 27 年 2 月 25 日、Xに対し同年 3 月 31 日付で期間満了となる労働契約を更新しない旨通知した(以下「本件雇止め」という。)。そこで、Xは、本件雇止めの無効および地位確認を求め、Y₁がXの長時間労働を軽減等すべき注意義務を怠ったことおよびY₁の従業員によるパワーハラスメントに適切に対処すべき義務を怠ったことはいずれも不法行為に該当し、Y₂がY₁と同様に労働時間を軽減等すべき注意義務を怠ったことにつき共同不法行為(予偏的請求として安全配慮義務違反)となると主張し、本件雇止めが違法であるとして賃金相当額および慰謝料ならびに遅延損害金の支払いを求めて本件訴えを提起した。原審(大阪地判令和 3・10・28 労判 1257 号 17 頁)はXの請求をいずれも棄却したためXが控訴した。 |
判旨(抜粋) | 原判決一部変更・一部容認(確定) (ⅰ) Y₁の注意義務違反ないし安全配慮義務について (ア)…Xが同一の店舗…で給油所作業員として就労していたことに照らせば、Y₁は、Aに問合せをするなどして、Aとの労働契約に基づくXの労働日数及び労働時間について把握できる状況にあったのであるから、XのAにおける兼業は、従業員が勤務時間外の私的な時間を利用して雇用主と無関係の別企業で就労した場合(雇用主が兼業の状況を把握することは必ずしも容易ではない場合)とは異なる。 (イ)Y₁は、Xとの間の労働契約上の信義則に基づき、使用者として、…安全配慮義務を負うと解されるところ、…Y₂との労働契約に基づく就労状況も比較的容易に把握することができたのであるから、Xの業務を軽減する措置を取るべき義務を負っていたというべきである。 しかるに、Y₁は、平成 26 年 3 月末頃にはXがAとの兼業をしている事実を把握したにもかかわらず、兼業の解消を求めることはあったものの、XのAにおける就労状況を具体的に把握することなく、同年 7 月 2 日に至るまで上記のような長時間の連続勤務をする状態を解消しなかったのであるから、Xに対する安全配慮義違反があったと認められる。 (ウ)なお、…Y₁及びAとの労働契約に基づくXの連続かつ長時間労働の発生は、Xの積極的な選択の結果生じたものであることは否定できず、Xは、連続かつ長時間労働の発生という労働基準法 32 条及び 35 条の趣旨を自ら積極的に損なう行動を取っていたものといえる。 しかしながら、…Y₁には、労働契約上の一般的な指揮命令権があるのであり、Xが法の趣旨に反した長時間かつ連続の就労をしていることを認識した場合には、直ちにそのような状況を除去すべく、EがXの希望するY₁における勤務シフトを承認しない等の措置をとることもできたのであるから、上記のようなXによる積極的な行動があったことは、安全配慮義務違反の有無の判断を直接左右するとはいえず、過失相殺の有無・程度において考慮されるにとどまるというべきである。 「Y₁がXに対して賠償すべき損害額を算定するに当たっては、Xにも相応の過失があったと認められるのであり、4割の過失相殺をするのが相当と認められる。」 (ⅱ) Aの注意義務違反ないし安全配慮義務についてXは、週 3 日間程度、Aとは資本関係等がない…訴外F…においても勤務していたものであり、Aにおいて、…労働時間等を当然に把握していたものではない。また、AにおけるXの兼業も、基本的には、…Y₁との労働契約における拘束時間外(私的な時間)に行われるものであることからすると、Aにおいて積極的に他企業である Y₁におけるXの就労状況を把握すべきであったということはできない。Xが自らY₁での労働日数及び労働時間数を増加させて いる事情のあること、XとAとの労働契約締結についてX自身が、自身の体調や生活上の事情などを勘案して当該契約を締結するか否かを判断するべき立場にあること、Xにおいて同契約の締結を拒むことができないような客観的な事情のない中で、X自ら希望して労働契約を締結し、あるいは就労日を増やしていったものであることなど、本件に表れた一連の経過を踏まえると、AにおいてXの連続かつ長時間労働に関して不法行為責任を負ったり、労働契約上の安全配慮義務違反があるとまでは認められない。 以上 |