味の素グループにおける「ビジネスと人権」に関する取組み事例(2024年4月現在)
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味の素グループにおける「ビジネスと人権」に関する取組み事例(2024年4月現在)
味の素グループにおいては、2011 年の「ビジネスと人権」に関する指導原則の採択を受け、2012 年にグローバル企業の動向を調査する等の取組を開始し、2013年には「サプライヤーCSRガイドライン」を策定、以後、人権デュー・ディリジェンスに関する取組みが推進され、国・地域ごとに実施された人権デュー・ディリジェンスの結果が公表されています。
同社の具体的取組のうち、人権方針・各種ガイドライン、推進・ガバナンス体制、人権デュー・ディリジェンスの点についてご紹介します。
1.人権方針・各種ガイドライン
(1)「人権尊重に関するグループポリシー」
味の素グループは、2018 年に「人権尊重に関するグループポリシー」を制定・公表しています。
同ポリシーにおいて特徴的な点は、味の素グループにおける人権に関する重点課題を別表において設定し、重点課題については「社会の変化や事業の動向などを踏まえ、適宜見直しを図るものとします」と定められていることです。
(2)「サプライヤー取引に関するグループポリシー」・「サプライヤー取引に関するグループポリシーガイドライン」
持続可能な社会への貢献を実現するために必要なサプライヤーへの7項目の期待事項が「サプライヤー取引に関するグループポリシー」として定められています。
7項目として挙げられているのは、①法令・社会規範の順守と体制の整備、②人権の尊重、③労働における安全衛生、④製品・サービスの品質、安全性の確保、⑤地球環境への配慮、⑥情報セキュリティ、⑦社会への貢献と地域との共生です(2024年4月1日付改定版)。
また、これらの7項目の期待事項に関して、サプライヤーに求める具体的な行動を定め、必須項目または発展項目に分類した「サプライヤー取引に関するグループポリシーガイドライン」が定められています。
同ガイドラインにおいては、7つの期待事項に関して、それぞれ取組むべき内容が、必ず取り組んで貰いたい「必須」と、共に持続可能な社会への貢献及び企業の社会的責任を果たすためにさらに推奨される取組みである「発展」に分けて具体的に定められ、また、必要に応じて補足説明が設けられるなど、非常に実践的な内容になっています。
2.推進・ガバナンス体制
味の素グループにおいては、取締役会の監督のもと、経営会議の下部機構であるサステナビリティ委員会と経営リスク委員会を中心に、サプライチェーンにおける人権尊重を含めたESG・サステナビリティに関する取り組みを推進しています。
(1)人権デュー・ディリジェンスの実施
味の素グループにおいては、2014 年以降4年ごとに事業全体の原材料調達、生産、販売に関する国ごとの人権リスク評価を実施し、翌年以降、人権リスク評価の結果抽出されたリスクに基づき、該当する国・地域への現場訪問を行い事業に関わるステークホルダー(取引先企業従業員・地域住民などのライツホルダー、NPO等)との直接対話を通して人権への影響・課題を把握し、その結果を評価報告書としてとりまとめ、公表しています。
人権デュー・ディリジェンスの実施に関して、味の素グループは、ライツホルダーとの対話・協議を最も大切なものと位置付けた上で、①「深掘性」(ライツホルダーとの直接対話を通じて、人権課題の抽出および抽出した課題へ迅速に対処できるマネジメント体制を構築する)と、②「網羅性」(サプライヤーをはじめとする取引先各社との連携強化のため、「サプライヤー取引に関するグループポリシーガイドライン」に基づいた独自の質問票を活用し人権リスクの抽出を行い、対話を通して改善を支援する)という二つのアプローチを中心とした取組みが進められています。
人権リスク評価の際には、Verisk Maplecroft社人権リスクデータベースを用い、外部有識者の助言を得ながら人権テーマの特定と分析を実施していると報告されています。
また、味の素グループでは人権の負の影響から生じた被害に対し迅速かつ適切に対処するため、グループ内外に複数の相談・通報窓口が設置されています。
2021年には、人権デュー・ディリジェンスの取り組みの一環として、日本で働く外国人労働者が職場や仕事の悩みを気軽に相談できる多言語対応ホットライン「ASSCワーカーズボイス(AWV)」の運用が開始されています。
詳細は味の素グループのウェブサイト「人権」をご覧ください。
3.取り組みのポイントと弁護士としての所感
(1)人権方針の柔軟性と適応力
味の素グループが2018年に制定した「人権尊重に関するグループポリシー」は、社会の変化や事業の動向を考慮し、重点課題を適宜見直す仕組みが導入されている点が特徴的です。これは、企業が環境の変化に迅速に対応し、常に最新の人権課題に取り組むための柔軟性と適応力を持っていることを示しています。このアプローチは、変化する社会状況に対応するために他企業も参考にすべき優れた実践です。
(2)具体的で実践的なガイドライン
「サプライヤー取引に関するグループポリシーガイドライン」は、サプライヤーに求める行動を「必須」と「発展」に分類し、具体的な取り組み内容を定めています。このように具体的で実践的なガイドラインは、サプライチェーン全体での人権リスク管理を徹底するために非常に有効です。詳細な指示と補足説明があることで、サプライヤーが何をすべきか明確に理解でき、実行に移しやすい点が評価できます。
(3)ガバナンス体制とリスク管理の徹底
味の素グループは、取締役会の監督のもと、サステナビリティ委員会と経営リスク委員会を中心に、人権尊重を含めたESG・サステナビリティの取り組みを推進しています。このガバナンス体制は、企業の最高経営層が人権問題に責任を持ち、全社的な取り組みを統括することを可能にしています。また、リスク管理の透明性と徹底した監視体制が、企業全体でのコンプライアンス強化に寄与しています。
(4)ライツホルダーとの対話の重要性
味の素グループの人権デュー・ディリジェンスの取り組みでは、ライツホルダー(取引先企業従業員や地域住民など)との対話を重視しています。このアプローチは、現場の声を直接聞き、具体的な人権課題を深掘りするために重要です。特に、現場訪問と直接対話を通じて得られた情報を基に迅速に対処する「深掘性」と、サプライヤーとの連携を強化し人権リスクを抽出する「網羅性」の二つのアプローチは、他の企業にとっても非常に参考になるでしょう。
(5)結論
味の素グループの取り組みは、人権尊重のための具体的かつ実践的な手法を示す優れた事例です。人権方針の柔軟性、具体的なガイドラインの策定、ガバナンス体制の強化、ライツホルダーとの対話を重視したデュー・ディリジェンスなど、多岐にわたる取り組みが企業の社会的責任を果たすための模範となります。これらの取り組みを通じて、企業が直面する人権課題に対してどのように対応すべきか、多くの示唆を提供しています。持続可能な社会の実現に向けて、他企業もこのような取り組みを積極的に取り入れることが求められると考えます。
4.当事務所としてサポートできること
人権尊重の取組みにあたっては、人権尊重責任を果たすことの表明として、人権方針を策定し、従業員、取引先その他の関係者に向けて周知する必要がありますが、各社の業務内容、サプライチェーンの規模や範囲などに鑑みて、どのような情報を参照して作成すればよいか悩ましいと感じているケースも多いと思われます。
また、「人権デュー・ディリジェンス」は、「ビジネスと人権」に取組む企業にとっては不可欠の取組みである一方、人権デュー・ディリジェンスの対象となる範囲、リスクアセスメントの方法、その他具体的な実施ステップを把握できておらず、できていない企業も多いのではないかと思います。
湊総合法律事務所は200 社を超える顧問企業様(2023年12月現在)に法的サービスを提供してきた知見を踏まえ、各業界、各企業の実態に合わせ、「ビジネスと人権」の取組みを実践していくための「ビジネスと人権法務コンサルティング」を提供し、人権方針策定や人権デュー・ディリジェンスの実施をサポートしております。
企業活動がステークホルダーのいかなる人権にどのような負の影響を与えているかを分析し、重要度と緊急度を把握して、経営課題として捉えるべき人権リスクを明確化することができますので、「人権デュー・ディリジェンスの実施」あるいは「人権リスクの明確化・分析」を検討している企業の皆様は以下のビジネスと人権法務コンサルティングの専用ページ「湊総合法律事務所のビジネスと人権法務コンサルティング」をご覧ください。
「ビジネスと人権」に取り組んでいくうえでの初動対応から今後の対策を含め、ご質問やご依頼などがありましたら、お気軽にお問い合わせください。
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