ANAグループにおける「ビジネスと人権」に関する取組み事例(2024年6月現在)

ANAグループにおける「ビジネスと人権」に関する取組み事例(2024年6月現在)

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ANAグループにおける「ビジネスと人権」に関する取組み事例(2024年6月現在)

ANAグループでは、「ANAグループ人権方針」、ANAグループの全社員が共通して守るべき行動を示した行動準則、サプライチェーン全体でより持続可能な調達活動を推進するための「ANAグループ 調達方針」をはじめとする各種指針の策定、「人権報告書」の公表、人権デュー・ディリジェンスの実施等、「ビジネスと人権」に関する様々な取組みが推進されています。

同社の具体的取組のうち、人権方針・各種ガイドライン、推進・ガバナンス体制、人権デュー・ディリジェンスについてご紹介します。

1.人権方針・各種ガイドライン

①「ANAグループ人権方針」

ANAグループでは、①国際人権章典(世界人権宣言と国際人権規約)、②労働における基本的原則および権利に関する国際労働機関の宣言、③国連グローバル・コンパクト10原則、④国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」の4つの指針等に基づき、2016年4月に「ANAグループ人権方針」を定め、2023年7月に「ビジネスと人権」を取り巻く環境の変化に対応すべく改訂と拡充を行っています。

②「社会への責任ガイドライン」

「ANAグループ人権方針」に先立ち、2014年には、ANAグループの社員が共通して守るべき行動を示した行動準則「社会への責任ガイドライン」が定められています。

同ガイドラインは、①「お客様と社会へ安心と満足を提供します」、②「各国・地域の法令やルールを守ります」、③「情報を適切に管理し、誠実なコミュニケーションを行います」、④「人権・多様性を尊重します」、⑤「環境に配慮し、行動します」、⑥「あかるい社会づくりに貢献します」、という6つの柱(宣言)で構成されています。

このうち、②「各国・地域の法令やルールを守ります」に関しては、顧客、株主・投資家、取引先・ライバル会社、企業市民、社内、という同グループに関係する多様な立場ごとに関係する法令が整理されており、さらに、グループ内で共有するガイドラインという性質から、各法令についてコンパクトな解説が付けられており、法令遵守・コンプライアンスの観点から非常に参考になります。

また、④「人権・多様性を尊重します」の項目では、(ⅰ)企業活動における人権尊重、(ⅱ)各国・地域の文化・習慣、敵視、価値観、社会規範の尊重、(ⅲ)職場の仲間の個性や多様性を認めること、の3点が挙げられ、「人権・多様性」について、グループ内で共有すべき内容がコンパクトかつ明確に定められています。

2.推進・ガバナンス体制

ANAグループにおいては、 ANAホールディングス社長総括、チーフESGプロモーションオフィサー議長のもと、ANAホールディングスの常勤取締役・執行役員・常勤監査役、ならびにANAグループ全社の役員等で構成される「グループESG経営推進会議」が設置されています。また、各グループ社におけるESG経営推進の責任者として、ESGプロモーションオフィサー(EPO)が、ESG経営推進の牽引役として、グループ各社・各部署にESGプロモーションリーダー(EPL)が配置され、「ビジネスと人権に関する指導原則」に則った企業活動の推進が図られています。

3.人権デュー・ディリジェンス

ANAグループは、人権尊重の取り組みの積極的な社外発信を通じてステークホルダーとのコミュニケーションを促進させる目的で、2018年に「人権報告書」を発行し、以後、2019年、2020年、2023年と同グループのウェブサイトにて随時公表されています。

「人権報告書」には、人権尊重に係る戦略・方針、人権尊重に関するガバナンス体制等のほか、人権デュー・ディリジェンスの実施状況が詳しく記載されています。

同グループにおいては、Verisk Maplecroft社とCRT(経済人コー円卓会議)日本委員会との協力を得て人権インパクトアセスメントが実施されており、2016年に実施された人権インパクトアセスメント及びその後のレビューを通じて、同グループにおける重要な人権として、(ⅰ) 日本における外国人労働者の労働環境の把握、(ⅱ)機内食等に関わるサプライチェーンマネジメントの強化、(ⅲ)航空機を利用した人身取引の防止、(ⅳ)贈収賄の防止の4点の人権テーマが特定され、人権デュー・ディリジェンスが実施されていました(「人権報告書2018、2019、2020」参照)。

その後、2022年に改めて人権インパクトアセスメントが実施され、(ⅰ)国内外の業務委託先やベンダーで働く外国人労働者の労働環境把握、(ⅱ)サプライチェーン上における人権課題・環境負荷の特定、(ⅲ)航空機を利用した人身取引の防止、(ⅳ)お客様情報の保護とプライバシーへの配慮、(ⅴ)AIやメタバース等のサービスを提供する際の人権配慮が、重要な人権テーマとして特定され、人権デュー・ディリジェンスが実施されています(「人権報告書2023」参照)。

2022年に改めて人権インパクトアセスメントを実施した理由として、「人権報告書2023」においては、「ビジネスと人権を取り巻く国際的な環境変化、さらにはANAグループの事業環境や事業ポートフォリオの変化等を踏まえ、改めて重要な人権テーマを検討する必要があると考え」たと説明されています。

「人権報告書2023」においては、人権インパクトアセスメントをどのような手順で行っていくか、人権テーマの特定、各人権テーマに関する対応などについても詳しく説明されており、非常に参考になる内容となっています。

詳細につきましてはANAグループのウェブサイトをご覧ください。

ANAグループ「人権」に関するページ

ANAグループ人権方針

人権報告書2023

4.取り組みのポイントと弁護士としての所管

(1)法的コンプライアンスと人権尊重の相互関係

ANAグループが策定した「ANAグループ人権方針」や「社会への責任ガイドライン」は、各国の法令を遵守することを強調しています。法的コンプライアンスは企業活動の基盤ですが、単に法令を守るだけでなく、企業の行動が人権尊重の視点からも評価されることが重要です。例えば、労働環境の改善や多様性の尊重は、法的義務を超えて企業の社会的責任を果たす上で欠かせません。このような取り組みは、企業の信頼性向上に繋がり、結果として持続可能な成長を実現します。

(2)ガバナンス体制とリーダーシップの重要性

ANAグループの「グループESG経営推進会議」や「ESGプロモーションオフィサー(EPO)」の設置は、企業のガバナンス体制が人権尊重にどれだけ重要視されているかを示しています。企業のトップマネジメントがリーダーシップを発揮し、ESG(環境・社会・ガバナンス)を推進することが重要です。特に、役員やリーダーが率先して行動することで、全社員の意識改革が進み、組織全体が人権尊重に向けて一丸となることが可能となります。

(3)人権デュー・ディリジェンスの実施とその意義

ANAグループが実施している人権デュー・ディリジェンスは、企業が持つ潜在的なリスクを洗い出し、予防措置を講じる上で非常に有効です。特に、サプライチェーンにおける人権課題や環境負荷の特定は、企業の社会的責任を果たすために不可欠です。このプロセスをどのように実施し、結果をどのように活用しているかに注目すべきです。例えば、リスク評価の結果をもとに具体的な改善策を講じることで、企業の信頼性が高まり、長期的なリスク軽減に繋がります。

(4)最新技術と人権配慮のバランス

AIやメタバースなどの新技術が企業活動に導入される中で、ANAグループが「お客様情報の保護とプライバシーへの配慮」を重視している点は非常に重要です。最新技術の活用は業務効率の向上や新たなビジネス機会の創出に繋がりますが、一方でプライバシー侵害や情報漏洩のリスクも伴います。技術革新と人権尊重のバランスをどのように保つかが課題となります。企業は技術の導入に際して、法的リスクを十分に評価し、適切な対策を講じることが求められます。

(5)国際的な動向と国内企業の対応

ANAグループが国際的な人権基準に基づいて取り組みを進めていることは、日本企業全体にとって非常に参考になります。特に、国際的な人権インパクトアセスメントの実施は、国内企業にとっても重要な学びの機会となります。国際的な基準をどのように国内の法制度や企業文化に適応させるかが鍵となります。企業がグローバルな視点を持ちながらも、国内の特性を考慮した柔軟な対応を取ることが必要です。

(6)結論

ANAグループの「ビジネスと人権」に関する取り組みは、他の企業にとっても模範となるべきものです。法的な観点からもこれらの取り組みを評価し、企業が持続可能な成長を遂げるためのアドバイスを提供していきたいと考えています。ビジネスと人権は切り離せない関係にあり、企業の社会的責任を果たす上で重要なテーマであることを再認識する必要があります。

5.当事務所としてサポートできること

人権尊重の取組みにあたっては、人権尊重責任を果たすことの表明として、人権方針を策定し、従業員、取引先その他の関係者に向けて周知する必要がありますが、各社の業務内容、サプライチェーンの規模や範囲などに鑑みて、どのような情報を参照して作成すればよいか悩ましいと感じているケースも多いと思われます。

また、「人権デュー・ディリジェンス」は、「ビジネスと人権」に取組む企業にとっては不可欠の取組みである一方、人権デュー・ディリジェンスの対象となる範囲、リスクアセスメントの方法、その他具体的な実施ステップを把握できておらず、できていない企業も多いのではないかと思います。

湊総合法律事務所は200 社を超える顧問企業様(2023年12月現在)に法的サービスを提供してきた知見を踏まえ、各業界、各企業の実態に合わせ、「ビジネスと人権」の取組みを実践していくための「ビジネスと人権法務コンサルティング」を提供し、人権方針策定や人権デュー・ディリジェンスの実施をサポートしております。

企業活動がステークホルダーのいかなる人権にどのような負の影響を与えているかを分析し、重要度と緊急度を把握して、経営課題として捉えるべき人権リスクを明確化することができますので、「人権デュー・ディリジェンスの実施」あるいは「人権リスクの明確化・分析」を検討している企業の皆様は以下のビジネスと人権法務コンサルティングの専用ページ「湊総合法律事務所のビジネスと人権法務コンサルティング」をご覧ください。

「ビジネスと人権」に取り組んでいくうえでの初動対応から今後の対策を含め、ご質問やご依頼などがありましたら、お気軽にお問い合わせください。
 

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