トヨタ自動車株式会社における「ビジネスと人権」に関する取組み事例(2024年2月現在)
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トヨタ自動車株式会社における「ビジネスと人権」に関する取組み事例(2024年2月現在)
トヨタ自動車株式会社では、「ビジネスと人権に関する指導原則」を支持し、指導原則に基づいた人権尊重の取り組みを推進しています。
豊田章男前社長は、2020年3月期決算説明会で、新型コロナ危機を踏まえ、「企業も人間もどう生きるのかを考え直す最後の機会」とし、「世界中で自分以外の誰かの幸せを願い、行動できる人財を育てることが私の使命、すなわちSDGsに本気で取り組むことだ」というコミットメントを発信し、同社においては「ビジネスと人権」への取組みが加速しています。
同社の具体的取組のうち、人権方針・各種ガイドライン、推進・ガバナンス体制、人権デュー・ディリジェンスの点についてご紹介します。
1.人権方針・各種ガイドライン
①「トヨタ自動車人権方針」
2021年9月に「トヨタ自動車人権方針」を策定・公表しています。
同人権方針は、同社の事業活動における人権に関する最上位の方針として位置付けられています。
また、同人権方針には、「別表 優先取組み課題」が添付されています。
②「仕入先サステナビリティガイドライン」
2021年11月には、2009年に策定された仕入先のCSRに関するガイドラインを改訂し、サプライチェーン上の人権リスク軽減に向けた仕入先の努力義務等を規定した「仕入先サステナビリティガイドライン」が公表されています。
➂「持続可能な天然ゴム調達方針」
生物多様性を維持し、気候変動に対応し、暮らしを維持する上で、森林やその他自然生態系の保護は不可欠であるとの考えのもと、自動車に使われる天然ゴムを対象とした「持続可能な天然ゴム調達方針」が策定されています。
2.推進・ガバナンス体制
環境・社会・ガバナンスなどのサステナビリティ活動の継続的な推進・改善を図るため、諮問機能としてのサステナビリティ会議、業務執行機能としてのサステナビリティ分科会の推進体制が構築されています。
人権の尊重に関する事項については、サステナビリティ分科会にて方向性・課題などを報告・審議し、重要案件はサステナビリティ会議に諮問の上、取締役会にて監督・意思決定が実施されています。
3.人権デュー・ディリジェンス
英国現代奴隷法及びそれに類する各国法令(豪州現代同製法等)を踏まえて、同社の国内外における自動車製造に係わる生産拠点での対応及び状況を報告するために、「外国人労働・強制労働に関する取組み報告(各国現代奴隷法に関する声明)」を取り纏め、2021年以降、毎年報告が公表されています。
同報告においては、同社における人権尊重の取組み内容、リスクの所在と当該リスクを評価・管理するために行った措置の内容、実施された研修及び次年度以降の計画案などについて具体的に言及されています。
同報告によれば、同社においては、2021年以降、以下のような取組みが実施されたことが確認できます。
・トヨタグループ各社及びその主要一次サプライヤーに対する外国人労働者の来日 経路・受け入れに関する費用に関するアンケートの実施
同社の主要一次サプライヤー及び連結子会社に対する外国人労働者の活用状況、受 入形態、国籍、在籍人数に関するアンケートの実施
・上記アンケートに基づく外国人労働者の活用にかかる実態調査
・上記アンケート及び実態調査から確認された課題解消に向けた施策(研修、海外事 業拠点との連携等)の実施
・外国人労働者(外国人技能実習生)の受入れに係る費用の適正性調査
・現代奴隷制と人身売買に関する集合研修の実施(2014年より継続的に実施)
同社においては、移民労働を優先取り組みテーマとして設定しており、「責任ある外国人労働者受入プラットフォーム(JP MIRAI)」の活動に2020年の設立から参画し、また、移民労働者を対象にした相談・救済窓口を、2023年5月より本格稼働させています。
当初のアンケート結果から、次に確認すべき内容を検討・把握し、これらのアンケート結果に基づく調査、調査結果に基づく課題の把握、対応策の実施という流れは、業種・業界を問わず参考になるものと思われます。
同社の取組みの詳細は、以下をご覧ください。
・外国人労働・強制労働に関する取組み報告(各国現代奴隷法に関する声明)2023年版
・Sustainability Data Book(2020年度より年度を通じて都度更新)
4.取り組みのポイントと弁護士としての所感
(1)人権尊重の文化の醸成と企業価値の向上
トヨタ自動車の「人権方針」や「仕入先サステナビリティガイドライン」は、企業が人権を尊重するための具体的な指針を提供しています。重要なのは、これらの方針が単なる文書に留まらず、企業文化として根付くことです。企業全体で人権尊重の意識を高めることで、従業員のエンゲージメントが向上し、結果として企業価値の向上に繋がるでしょう。このような文化醸成の取り組みは、他の企業にとっても大いに参考になります。
(2)ガバナンスと透明性の確保
トヨタ自動車のサステナビリティ会議や分科会のようなガバナンス体制は、企業の人権尊重の取り組みを効果的に推進する上で欠かせません。また、これらの取り組みを透明性高く公表することで、ステークホルダーからの信頼を得ることができます。特に、取締役会の監督を受けることで、企業の最高経営層が人権問題に対する責任を明確にすることが重要です。透明性の高いガバナンス体制は、企業の持続可能な成長を支える基盤となります。
(3)人権デュー・ディリジェンスの体系的実施
トヨタ自動車が実施している人権デュー・ディリジェンスは、リスク管理の重要な手段です。特に、アンケート調査から始まり、実態調査、課題の把握、対応策の実施という一連のプロセスは、他企業にも応用可能なベストプラクティスと言えます。体系的なデュー・ディリジェンスの実施により、企業は潜在的なリスクを早期に発見し、適切な対応を取ることが可能となります。
(4)新たな課題への対応と持続可能な発展
トヨタ自動車が移民労働者の権利保護に注力していることは、企業が新たな社会課題に取り組む姿勢を示しています。このような具体的な取り組みは、企業が直面する新たな課題に対してどのように対応するかのモデルケースとなります。持続可能な発展を目指すためには、企業が柔軟に新たな課題に対応し、社会的責任を果たす姿勢が求められます。
(5)結論
トヨタ自動車の「ビジネスと人権」に関する取り組みは、企業が持続可能な成長を実現するための模範となるものです。人権尊重の文化の醸成、透明性の高いガバナンス体制の確立、体系的なデュー・ディリジェンスの実施、新たな課題への対応は、他企業にとっても重要な教訓となります。企業が社会的責任を果たし、持続可能な未来を築くための指針として、これらの取り組みを是非参考にしていただいて積極的に取り入れていただきたいと思います。
4.当事務所としてサポートできること
人権尊重の取組みにあたっては、人権尊重責任を果たすことの表明として、人権方針を策定し、従業員、取引先その他の関係者に向けて周知する必要がありますが、各社の業務内容、サプライチェーンの規模や範囲などに鑑みて、どのような情報を参照して作成すればよいか悩ましいと感じているケースも多いと思われます。
また、「人権デュー・ディリジェンス」は、「ビジネスと人権」に取組む企業にとっては不可欠の取組みである一方、人権デュー・ディリジェンスの対象となる範囲、リスクアセスメントの方法、その他具体的な実施ステップを把握できておらず、できていない企業も多いのではないかと思います。
湊総合法律事務所は200 社を超える顧問企業様(2023年12月現在)に法的サービスを提供してきた知見を踏まえ、各業界、各企業の実態に合わせ、「ビジネスと人権」の取組みを実践していくための「ビジネスと人権法務コンサルティング」を提供し、人権方針策定や人権デュー・ディリジェンスの実施をサポートしております。
企業活動がステークホルダーのいかなる人権にどのような負の影響を与えているかを分析し、重要度と緊急度を把握して、経営課題として捉えるべき人権リスクを明確化することができますので、「人権デュー・ディリジェンスの実施」あるいは「人権リスクの明確化・分析」を検討している企業の皆様は以下のビジネスと人権法務コンサルティングの専用ページ「湊総合法律事務所のビジネスと人権法務コンサルティング」をご覧ください。
「ビジネスと人権」に取り組んでいくうえでの初動対応から今後の対策を含め、ご質問やご依頼などがありましたら、お気軽にお問い合わせください。
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