ESG・SDGs・指導原則リスクとは何か?
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ESG・SDGs・指導原則リスクとは何か?
1 E(Environment)リスクの具体例
環境リスクの筆頭は、何といっても二酸化炭素をはじめとする温暖化ガス排出による地球温暖化でしょう。
IPCC第5次評価報告書によれば、このまま放置しておくと、21世紀末には今より4度程度気温が上昇すると予測されています。そして、日本は、年平均気温で4.5度上昇し、東京は現在の屋久島の気温と同じくらいになり、日降水量200ミリ以上となる大雨の年間発生回数は2倍以上となると予測されています。
そして、温暖化により、世界的に洪水被害、熱中症などの死亡リスク、干ばつによる水・食糧不足などが起こってくると考えられています。
こうした地球温暖化の原因となっている二酸化炭素の排出割合がどうなっているかというと、全国地球温暖化防止活動推進センターのHPを見ると、日本では、2018年度は、エネルギー転換部門40.1%、産業部門25.0%、運輸部門17.8%と、8割超が事業活動から排出されていることがわかります。
そうなってくると、いくら企業が高尚な理念を掲げて事業活動を展開したとしても、大量の二酸化炭素を排出して地球温暖化に加担していたのであれば、その活動はむしろ現在及び将来の世代に対する重大な人権侵害にしかならないことになってしまいます。
ここに働いてくるのがESGです。このような人権侵害につながる企業活動は、地球全体のサスティナブルな発展を阻害するものであるから、こうした企業に対しては、投資対象から除外し、経済社会から排除して行こうということになるのです。
たとえば、石炭火力発電は大量の二酸化炭素を排出することから、2020年5月に、日本国内のメガバンク3社は、新設石炭火力発電への投融資を停止しました。今後は、その動きがさらに加速し、石炭火力に依存する、あるいは加担している企業に対する投資や融資はますます厳しくなっていくでしょう。そうなると当該企業と取引している中小企業にも大きな影響を及ぼすことになるでしょう。
この動きは、温暖化ガスのみに限られません。廃プラスチックや、土壌汚染などなど様々な分野で同様の問題が発生しています。
こうした環境破壊または助長・加担企業に対しては、国際的に投融資を少なくしていく動きがあります。企業にとっては大きなリスクであり、対処の必要があるのです。
2 S(Social)リスクの具体例
2013年4月24日にバングラデシュの首都ダッカの近郊にある8階建ての商業ビル・「ラナ・プラザ」が崩落し、死者が1127人、行方不明者500人、負傷者が2500人という大惨事が発生しました。この建物は、正規の許可手続きなしに建築され、5回以上の3階部分は違法に増築されていました。建物にはヒビが入り、以前から危険が指摘されていたのに、経営者が労働者に稼働させていたことから惨事になってしまいました。
こうした経営者が責任を問われるべきことはもちろんのことです。しかし、この事件では、このようなバングラデシュの現地企業に製造委託している企業の責任が問われることになりました。この瓦礫の中から、先進国の有名なアパレル企業のロゴがついた布切れが散乱していました。こうして、世界展開する欧米や日本のファストファッションが、バングラデシュの劣悪な労働環境下にある安価な労働力を求めて製造委託をし、莫大な利益を上げていたことが浮き彫りとされました。
ここから、こうしたサプライヤー企業の中で起こっている問題は、仮に資本関係などなくても、そこから調達する企業にも責任があるとされるようになりました。
「ビジネスと人権に関する指導原則」には、こうした場面での企業責任について詳細に規定されています。今や、NGO、市民団体、消費者団体は、指導原則を根拠にして、企業に対し、対話を求め、責任を問うことが当たり前になってきています。
ここで、企業が明確な回答ができないと、立ちどころにインターネットを通じて世界中に公表されることになり、著しいレピュテーションリスクを負担することになり、企業価値の低落を招くことになってしまうのです。
このように、今や、社会的(Social)課題に対して企業がしっかり対処していないと大変なリスクに直面することになり得ますから、対処をしておく必要があるのです。
3 ESG・SDGs・指導原則リスクのまとめ
いかなる企業も、直接的な人権侵害や環境破壊をしていないとしても、それで大丈夫と思っていては、今の時代はとても乗り切っていくことはできません。
人権侵害に加担していることや、環境破壊に加担していることに気が付くということはとても難しいのです。それを発見するための人権デュー・ディリジェンスや環境デュー・ディリジェンスの手法については後述しますが、こうしたことに意識があまり働いていないような場合には大きなリスクがあります。
また、自分の会社が所在している国の法律や、進出している国の法律さえ守っていれば大丈夫という考え方も禁物です。ビジネスと人権に関する指導原則は、その上位に国際人権尊重を求めているからです。
こうしたリスクに無頓着でいると、ESG・SDGs・指導原則を無視・軽視している企業として、
- 投融資の対象から外されて、資金が得られなくなる。
- 企業の評判が下がる、バッシングを受ける。
- 消費者が商品やサービスを購入してくれなくなる。
- 規制が強化された際に、規制に対応できず企業として存続できなくなる。
といった重大なリスクに直面することになります。
このようにESG・SDGs・指導原則は、対応を軽視すると企業として存続ができなくなるほどの破壊力がある概念ですから、企業経営上も十分に内容を認識して取り組むべきなのです。
4 ESG・SDGs・指導原則対応の企業経営上のポイント
以上述べたことから明らかなように、今や企業としてESG・SDGs・指導原則を無視ないし軽視して企業経営することはできません。
企業経営上一番重要なことは、ESG・SDGs・指導原則の根本理念をまず理解することです。この点は次項で解説します。そのうえで
- 環境リスク・人権リスク・ガバナンスリスクを極小化すること
- 社会的課題の解決と企業利益の増大を両立させること
この両面を達成することを目標に据えていくことが不可欠です。
このHPでは、この目標達成の道しるべを示すことを目的にしています。
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弁護士 湊信明(共著)
日本経済新聞出版
(ビジネスと人権に関する行動計画 2020年10月政府策定に対応)
第1章:第5次産業革命の生存戦略
第2章:「ビジネスと人権に関する指導原則」が企業の成長を加速する
第3章:人権問題・社会課題を解決する企業が飛躍的に成長する
第4章:「ビジネスと人権」に関する行動計画のココを経営に取り込む
第5章:企業行動は国別行動計画からのステップアップが必要 他
ESG・SDGs・ビジネスと人権に関する指導原則の関連ページ
トムソンロイター社 ASIAN LEGAL BUSINESS(2021年12月号)に 「ESGと企業経営」についての記事(弁護士 湊信明)が掲載されました。 ▷詳しくはこちらをご覧ください。 |
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