内部統制に関する裁判例
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内部統制の裁判例
内部統制に関する裁判例としてどのようなものがありますか?
内部統制に関する代表的な裁判例としては、下記のようなものがあります。
1 大和銀行事件
大和銀行ニューヨーク支店で米国財務省証券などの証券取引業務を担当していた従業員が、取引で生じた損失を取り戻そうとして、長年にわたり、無断で米国財務省証券などを簿外で売買し、その隠蔽のために保管残高証明書を作り替える等していた。
その結果、11億ドルの損失が発生した。その後、この従業員は、大和銀行の頭取に不正取引を告白する手紙を送付したため不正取引が発覚した。ところが、銀行は米国当局に直ちに報告せず、米国当局に対する報告書に虚偽の記載をして提出するなどの隠蔽工作を行った。
その結果、大和銀行は、米国法令違反として、罰金3億4000万ドルを科され、さらに、米国法律事務所に弁護士費用1000万ドルを支払い、合計3億5000万ドルの損害を被ることとなった。
この事案において、ニューヨーク支店長は内部統制システム整備義務(善管注意義務)を怠ったとして5億3000万ドルの損害賠償義務を負い、11名の取締役(代表取締役を含む)は、善管注意義務違反を理由に、7000万ドルから2億4000万ドルの損害賠償義務を負うこととなった。
2 ダスキン事件
ダスキンが運営するミスタードーナツで販売されていた肉まんに国内で無認可の添加物が使われていたが、ダスキンは長期間にわたってかかる事実を公表しなかった。
取引業者からも問題について指摘されたことがあったが、担当取締役が独断で当該業者に6,300万円を支払って隠ぺいした。当時の社長らは事実を知ることとなった後も公表を行わなかった。結局、大阪府の立ち入り検査が入ったため公表せざるを得なくなった。
その結果、ダスキンに対して大きな社会的非難と加盟店に対する営業補償、信頼回復キャンペーン関連費用等の出費等の損害(約105億6,000万円)が発生し、社長・専務らが引責辞任に追い込まれた。
その際、株主は、取締役・監査役に対して責任を追及する株主代表訴訟を提起した。大阪高裁は隠蔽に関与した取締役に対しては、約53億4,000万円を支払いを命じる判決を下すとともに、隠ぺいに関与していない取締役・監査役11名に対しても、連帯して約5億6,000万円の損害賠償責任を認める判決を下した。
3 西武鉄道事件
東京証券取引所では、上場会社の上位10名までの大株主が保有する株式の合計が発行した株式の80%を超えると上場廃止となる。
西武鉄道(上場会社)は株式の88%超がコクドをはじめとする西武グループに保有されていた。そして、コクドは長年にわたって、西武鉄道の上場廃止を免れるために、多くの株式をコクドではない個人名義(名義株)にしていた。
これに呼応して、西武鉄道は有価証券報告書でコクドの保有株式数については名義株分を除外して記載し、コクドなどの上位10名の大株主の保有率が80%未満であるという虚偽の内容の有価証券報告書を発行し続けていた。
この西武鉄道の行為は有価証券報告書虚偽記載に当たる。
コクドは、西武鉄道株の保有比率を下げるため、2004年の8~10月にかけて大量の西武鉄道株を市場外取引で取引先の会社などに売却した。この売却は西武鉄道が有価証券報告書の虚偽記載を長年行っていたため上場廃止になる可能性が高いという「重要事実」を告げないままに行われたもので、インサイダー取引(証券取引法違反)に当たる。
2004年10月には事実が明らかになり、西武鉄道は上場廃止になり、西武・コクドグループオーナー会長も逮捕・起訴され、有罪判決を受けることとなった。
これらの裁判例は、内部統制の欠如が企業に重大な影響を与えることを示しており、企業が内部統制を強化するための教訓として活用できます。