広告作成時の留意点~不当表示の代表例~
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広告作成時の留意点~不当表示の代表例~
マーケティング活動を行う上では、サービスや商品をより魅力的に、できるだけ良く見せることは非常に重要です。
しかしながら、広告や商品表示の表現が誇大・過大である場合や、不適切な表現をしてしまった場合、不当景品類等及び不当表示防止法(景品表示法)違反となってしまうことも少なくありません。
このような不当な表示は、顧客との紛争を惹起しかねないことに加え、景品表示法違反として、措置命令や課徴金措置等の対象にもなり得ます。また、企業のレピュテーションにも重大なダメージを与えかねません。
このような事態に発展しないためにも、法令で認められた範囲内で、商品やサービスを魅力的に伝えることが必要です。
不当な表示の禁止としては、「優良誤認」(5条1項1号)、「有利誤認」(5条1項2号)、その他「商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの」(5条1項3号)が対象となっています。
以下では、不当表示になりかねない代表的な例をご紹介します。
1 二重価格表示
二重価格表示とは、例えば、「定価8500円のところをキャンペーン価格3900円で販売!!」という表示のように、販売価格を記載する際に、当該販売価格よりも高い他の価格(比較対照価格)を併記して表示するものをいいます。
消費者庁によれば、景品表示法上問題となる二重価格表示として、以下の2点が指摘されています(「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」)。
(1)同一ではない商品の価格を比較対照価格に用いて表示を行う場合
(2)比較対照価格に用いる価格について実際と異なる表示やあいまいな表示を行う場合
二重価格表示の際に用いられる比較対象価格としては、過去の販売価格、希望小売価格、競業他社の販売価格など多様なものが考えられます。
いずれの場合も、事実に基づいて表示する必要があり、比較対象価格として用いられた価格が虚偽の者である場合は、一般消費者に対して販売価格が安いという誤認を与え、不当表示に該当するおそれがあります。
(1)過去の販売価格を比較対象価格として表示する際の注意点
過去の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示を行う場合、当該比較対象価格が同一の商品について「最近相当期間にわたって販売されていた価格」であると言えないときは、一般消費者に販売価格が安いとの誤認を与えるため、不当表示に該当するおそれがあるとされています。
そして、「最近相当期間にわたって販売された価格」と言えるか否かは、①セール開始時点からさかのぼる8週間において、比較対象価格で販売されていた期間が、当該商品が販売されていた期間の過半を占めており、かつ、②比較対象価格で販売されていた期間が通算して2週間未満の場合又は比較対象価格で販売された最後の日から2週間以上経過している場合でないことが一応の基準とされています。
【不当表示に該当するおそれのある表示例】
・A衣料品店が、「婦人カシミヤセーター 当店通常価格12,000 円を9,500円」と表示しているが、実際には、当該商品と同一の商品について、過去の販売期間(8週間)のうち、当該価格で販売されていた期間は当初2週間だけであり、その後の6週間はこれより低い価格で販売されていたとき。
・A衣料品店が、「新作ダブルスーツ ○月1日~20日までの販売価格48,000 円の品 33,800 円」と表示しているが、実際には、当該商品と同一の商品について、当該比較対照価格により販売されていたのは2日間だけであるとき
・Aゴルフ用品製造販売業者が、インターネット上のショッピングサイトにおいて、「ゴルフクラブ 定価380,000円 特価138,000円」と表示しているが、実際には、当該「定価」と称する価格は、当該商品の販売開始時における同社の直営小売店舗での販売価格であって、当該価格での販売は4年前に終了しているとき。
(2)希望小売価格を比較対象価格として表示する際の注意点
製造業者、卸売業者、輸入総代理店等、小売業者以外の者が、自己の供給する商品について希望小売価格を設定している場合に、小売業者は、この希望小売価格を比較対照価格とする二重価格表示を行うことがあります。
この場合、製造業者、卸売業者、輸入総代理店等により設定され、あらかじめ公表されているとはいえない価格を、希望小売価格と称して比較対照価格に用いるときには、一般消費者に販売価格が安いとの誤認を与え、不当表示に該当するおそれがあるため、注意が必要です。
【不当表示に該当するおそれのある表示例】
・A電器店が、「全自動洗濯機 メーカー希望小売価格 75,000 円の品 58,000円」と表示しているが、実際には、当該商品と同一の商品について、メーカーであるB電機が設定した希望小売価格は67,000円であるとき
・A衣料品店が、「ビジネス・スーツ メーカー希望小売価格 29,000 円の品割引価格 23,800 円」と表示しているが、実際には、当該商品と同一の商品について、メーカーは希望小売価格を設定していないとき
・Aスーパーが、「インバーターエアコン メーカー希望小売価格200,000円の品 138,000 円」と表示しているが、実際には、当該商品と同一の商品について、メーカーであるB電機は希望小売価格を1年前に撤廃しているとき
(3)競業事業者の販売価格を比較対象価格として表示する際の注意点
競争事業者の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示を行う場合に、同一の商品について代替的に購入し得る事業者の最近時の販売価格とはいえない価格を比較対照価格に用いるときには、一般消費者に販売価格が安いとの誤認を与え、不当表示に該当するおそれがあります。
特に、市価を比較対照価格とする二重価格表示については、当該事業者が販売している地域内において競争関係にある事業者の相当数の者が実際に販売している価格を正確に調査することなく表示する場合には、不当表示に該当するおそれがありますので、注意が必要です。
市価や特定の競争事業者の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示を行う場合には、競争事業者の最近時の販売価格を正確に調査するとともに、特定の競争事業者の販売価格と比較する場合には、当該競争事業者の名称を明示する必要があります。
【不当表示に該当するおそれのある表示例】
・A人形店が、「陶製人形 市価9,000円のものを3,500円」と表示しているが、実際には、当該商品と同一の商品について、A人形店が販売している地域内における他の人形店では、最近時において3,000円から4,000円で販売されているとき
・A時計店が、「○○製時計 B時計店横浜店108,000円の品 80,000円」と表示しているが、実際には、当該商品と同一の商品について、B時計店横浜店では最近時において70,000円で販売されているとき
・Aスーパー福岡店が、「紳士用皮革ベルト Bスーパーで12,000円の品 7,800円」と表示しているが、実際には、当該比較対照価格は事実上福岡地域の一般消費者が購入する機会のないBスーパーの長崎店の販売価格であるとき
2 不実証広告
景品表示法第7条第2項は、内閣総理大臣は、事業者がした表示が優良誤認(第5条1項1号)に該当するか否かを判断するため必要があると認めるときは、当該表示をした事業者に対し、期間を定めて、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができ、この場合に、当該事業者が当該資料を提出しないときは、不当表示とみなし、措置命令等の対象とすると規定しています。
このように合理的な根拠を示す資料の提出ができない場合の広告を不実証広告といいます。
(1)どのような根拠資料を備えておけばよいか
事業者が提出した資料が、当該表示の裏付けとなる「合理的な根拠」を示すものであると認められるためには、次の2つの要件を満たす必要があります(「不当景品類及び不当表示防止法第7条第2項の運用指針―不実証広告規制に関する指針―」)。
(1) 提出資料が客観的に実証された内容のものであること
(2) 表示された効果、性能と提出資料によって実証された内容が適切に対応していること
上記(1)(2)の要件については、次のいずれかに該当するものであることが必要です。
(1)の要件
・試験・調査によって得られた結果
・専門家、専門家団体若しくは専門機関の見解又は学術文献であること
(2)の要件
・専門家等が、専門的知見に基づいて当該商品・サービスの表示された効果、性能について客観的に評価した見解又は学術文献であって、当該専門分野において一般的に認められているもの
・専門家等が、当該商品・サービスとは関わりなく、表示された効果、性能について客観的に評価した見解又は学術文献であって、当該専門分野において一般的に認められているもの
【当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものとは認められない例】
・事例1
家屋内の害虫を有効に駆除すると表示する家庭用害虫駆除器について、事業者から、公的機関が実施した試験結果が提出された。
しかしながら、当該試験結果は、試験用のアクリルケース内において、当該機器によって発生した電磁波が、害虫に対して一時的に回避行動を取らせることを確認したものにすぎず、人の通常の居住環境における実用的な害虫駆除効果があることを実証するものではなかった。
したがって、上記の表示された効果、性能と提出資料によって実証された内容が適切に対応しているとはいえず、当該提出資料は表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものとは認められない。
・事例2
「食べるだけで1か月に5kg痩せます」との見出しに加え、「○○大学△△医学博士の試験で効果は実証済み」との専門家による評価があることを表示することにより、表示全体として、食べるだけで1か月に5kgの減量効果が期待できるとの認識を一般消費者に与えるダイエット食品について、事業者から、美容痩身に関する専 門家の見解が提出された。
しかしながら、当該専門家の見解は、当該食品に含まれる主成分の含有量、一般的な摂取方法及び適度の運動によって脂肪燃焼を促進する効果が期待できることについて確認したものにすぎず、食べるだけで1か月に5kgの減量効果が得られることを実証するものではなかった。
したがって、表示全体として、食べるだけで1か月に5kgの減量効果が期待できるとの認識を一般消費者に与える表示と、提出資料によって実証された内容が適切に対応しているとはいえず、当該提出資料は表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものとは認められない。
3 おとり広告
広告等に記載された商品やサービスの内容が、実際には表示されたどおりに購入できないものである場合や、サービスの提供を受けることができないものである場合には、いわゆるおとり広告として、不当表示に該当します。
おとり広告に該当するのは以下の4点です(「おとり広告に関する表示」)。
(1)取引の申出に係る商品・サービスについて、取引を行うための準備がなされていない場合のその商品・サービスについての表示
【例】
・当該店舗において通常は店頭展示販売されている商品について、広告商品が店頭に陳列されていない場合
・広告、ビラ等に販売数量が表示されている場合であって、その全部又は一部について取引に応じることができない場合
・複数の店舗で販売する旨を申し出る場合であって、当該広告、ビラ等に掲載された店舗の一部に広告商品等を取り扱わない店舗がある場合
・広告商品等が売却済である場合
(2)取引の申出に係る商品・サービスの供給量が著しく限定されているにもかかわらず、その限定の内容が明瞭に記載されていない場合のその商品・サービスについての表示
(3)取引の申出に係る商品・サービスの供給期間、供給の相手方又は顧客一人当たりの供給量が限定されているにもかかわらず、その限定の内容が明瞭に記載されていない場合のその商品・サービスについての表示
(4)取引の申出に係る商品・サービスについて、合理的理由がないのに取引の成立を妨げる行為が行われる場合その他実際には取引する意思がない場合のその商品・サービスについての表示
【例】
・広告商品を顧客に対して見せない、又は広告、ビラ等に表示した役務の内容を顧客に説明することを拒む場合
・広告商品等に関する難点をことさら指摘する場合
・広告商品等の取引を事実上拒否する場合
広告に関しては、普段使っているような表現でも、根拠や裏付けが不足していたりすることで景品常時法違反になってしまうケースは少なくありません。
表示に関する景品表示法違反については、措置命令の内容が公表・報道されることによるインパクトは大きく、また、課徴金が課されることによる経済的ダメージも看過できません。
広告やキャンペーン等に関する表示について、少しでもご不安な点がある場合やリーガルチェックのご依頼をご検討の場合には、当事務所の広告・プロモーションに関するリーガルサービスをご活用ください。