判例研究
営業秘密について研究しました。
令和3年6月2日(水)に営業秘密について研究しました。
日時 | 令和3年6月2日(水) |
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場所 | 湊総合法律事務所 |
報告者 | 弁護士 沖 陽介 |
内容 | 営業秘密について研究しました |
第379回判例・事例研究会
日時:令和3年6月2日
場所:湊総合法律事務所
報告者:弁護士 沖 陽介
内容:営業秘密について
【判例】
事件 | 知財高判令和元年8月7日(平成31年(ネ)第10016号) 競業差止請求控訴事件 |
当事者 | 原告・控訴人 まつげエクステサロン事業等を目的とする株式会社であり,東京都国分寺市(以下,単に「国分寺市」という。)内のJR国分寺駅周辺において,まつげエクステンション(以下「まつげエクステ」という。)の専門店を3店舗営業している。被告・控訴人 平成28年10月3日,原告に雇用され,平成29年9月18日に原告を退職するまで,原告の店舗(以下「原告店舗」という。)において,顧客にまつげエクステを施術するアイリストとして働いていた。 |
事案の概要 | 東京都国分寺市内でまつげエクステサロンを営む控訴人が,元従業員である被控訴人が,控訴人を退職後に同市内のまつげエクステサロンで就労したことは,被控訴人と控訴人の間の競業禁止の合意に反し,また,控訴人の営業秘密に当たる控訴人の顧客2名の施術履歴を取得したことは不正競争行為(不正競争防止法2条1項4号,5号又は8号)に当たるとして,被控訴人に対し,主位的には上記合意,予備的には不正競争防止法に基づき,⑴ 退職後2年間の同市内におけるアイリスト業務への従事の差止めを求めた。 |
秘密情報 | 顧客の施術履歴 |
判旨事項 | 1 被控訴人(一審被告)が控訴人(一審原告)入社時に控訴人との間で締結した競業制限合意は、退職後2年間は、在職中知り得た「秘密情報」を利用して、控訴人と同じ市内において他のまつげエクステンションサロンの経営をせず、他のまつげエクステンションサロンにおけるアイリスト業務(まつげエクステンションを施術する業務)に従事しない旨の合意であり、ここにいう「秘密情報」とは秘密管理性を有する情報であることを要する。 2 控訴人の顧客カルテの施術履歴の情報に秘密管理性を認めることはできないから、施術履歴は上記1の「秘密情報」には当たらないし、他に、被控訴人が上記1の合意に反したと認めるに足りる証拠はないから、上記1の合意に基づく控訴人の被控訴人に対する差止請求には理由がない。 3 控訴人の顧客カルテの施術履歴の情報に秘密管理性を認めることはできないから、控訴人の被控訴人に対する不正競争防止法に基づく差止請求には理由がない。 |
争点 | ⑴ 本件競業行為が本件各合意に違反するか ⑵ 不正競争防止法違反を理由とする本件競業行為の差止めの可否 |
判旨抜粋 | 争点⑴について 「イ 入社時誓約書には,入社時誓約書には,①被控訴人は,退職後2年間は,在職中に知り得た秘密情報を利用して,国分寺市内において競業行為は行わないこと(13項),②秘密情報とは,在籍中に従事した業務において知り得た控訴人が秘密として管理している経営上重要な情報(経営に関する情報,営業に関する情報,技術に関する情報…顧客に関する情報等で会社が指定した情報)であること(10項)・・・が記載されている(甲3)。」「そこで,「秘密情報」の意義が問題となるが,上記入社時誓約書の記載によれば,入社時合意における「秘密情報」とは「秘密として管理」された情報であることを要することが理解できる。また,入社時誓約書の秘密情報に関連する規定は,その内容に照らし,不正競争防止法と同様に営業秘密の保 護を目的とするものと解される。そして,入社時誓約書には「秘密として管理」の定義規定は存在せず,「秘密として管理」について同法の「秘密として管理」(2条6項)と異なる解釈をとるべき根拠も見当たらない。そうすると,入社時誓約書の「秘密として管理」は,同法の「秘密として管理」と同義であると解するのが相当である。」 「また,「競業行為」とは,控訴人に在籍中の被控訴人が提供していた役務の性質に照らせば,他のまつげエクステサロンの経営及び他のまつげエクステサロンにおけるアイリスト業務への従事を意味すると解される。以上によれば,入社時合意は,被控訴人が,退職後2年間は,在職中に知り得た「秘密情報」を利用して,国分寺市内において他のまつげエクステサロンの経営をせず,他のまつげエクステサロンにおけるアイリスト業務に従事しない旨の合意であり,ここにいう「秘密情報」とは秘密管理性を有する情報であることを要するものと解される。」 「(イ) 就業規則及び退職時の「誓約・確認書」の記載 しかし,就業規則における「従業員に関する情報(個人番号,特定個人情報を含む),顧客に関する情報,会社の営業上の情報,商品についての機密情報あるいは同僚等の個人の権利に属する情報」との文言は,非常に広範で抽象的であり,このような包括的規定により具体的に施術履歴を秘密として指定したと解することはできない。 また,退職時の「誓約・確認書」の記載は,その文言からして,施術履歴を秘密として指定するものとは解し得ない。」 「(ウ) 施術履歴の管理体制原告店舗において,顧客カルテが入っているファイルの背表紙にマル秘マークが付され,室内に防犯カメラが設置されていたことが認められるものの,顧客カルテは従業員であれば誰でも閲覧することができ,顧客カルテが入っているファイルの保管の際に施錠等の措置はとられておらず,また,施術履歴の用紙にマル秘マークが付されていたかは明らかではない(甲28,33,弁論の全趣旨)ものであり,他に,施術履歴についての管理体制を裏付ける的確な証拠はない。かえって,控訴人においては,控訴人の一支店から他の支店に顧客を紹介することがあり,その際には,顧客に施術するなどの営業上の必要から,支店間で情報を共有するため,顧客カルテを撮影し,その画像を,私用のスマートフォンのLINEアプリを用いて従業員間で共有する取扱いが日常的に行われていた(弁論の全趣旨)。LINEアプリにより画像を共有すれば,サーバーに画像が保存されるほか,私用スマートフォンの端末にも画像が保存されるものであり,顧客カルテについての上記取扱いは,顧客カルテが秘密として管理されていなかったことを示すものといえる。 (エ) 以上によれば,施術履歴の情報について秘密管理性を認めるこ とはできず,施術履歴は入社時合意における「秘密情報」には当たらない。」 「控訴人は,施術履歴が営業秘密に当たると主張するが,施術履歴に秘密管理性が認められないのは上記1に説示のとおりである。よって,不正競争防止法に基づく差止請求は理由がない。」 |