判例研究
給与ファクタリングについて研究しました。
令和4年7月6日(水)給与ファクタリングについて研究しました。
日時 | 令和4年7月6日(水) |
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場所 | 湊総合法律事務所 |
報告者 | 弁護士 沖 陽介 |
内容 | 給与ファクタリングについて研究しました。 |
「第396回判例・事例研究会」
テーマ:給与ファクタリング
日時:令和4年7月6日
場所:湊総合法律事務所 第1会議室
報告者:弁護士 沖 陽介
判例
事件 | 東京地方裁判所令和3年1月26日判決金融法務事情2171号78頁 |
事案の概要 | ファクタリング業を営む原告 X が、被告 Y が勤務先に対して有する給与債権10万円を6万円で買い取った(債権譲渡を受けた)後、Y が譲渡に係る給与債権全額の支払を勤務先から受けたにもかかわらず、受領額のうち10万円を X に引き渡さないと主張して、債権譲渡契約に由来する受取物引渡請求権に基づき、10万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。 本件の XY 間の契約は、契約書上、Y が勤務先に対して有する給与債権を X が買い取り、その買取代金を Y に支払うものとされており、形式的には債権の売買取引となっている。ただし、労働基準法24条1項との関係から、勤務先から給与の支払いを受ける者は Y が想定されている。 |
今回取り上げる争点 | 給与ファクタリング契約の法的性質と有効性 |
条文 | 労働基準法24条(賃金の支払) 1 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。(但書以降は省略) |
判例 (一部) |
1 本件契約の法的性質について ⑴「これによれば、給与債権の譲受人である原告は、当該給与債権の回収を被告の勤務先から直接行うことは法律上許されないのであるから、その回収は、必然的に、給与債権を原告に譲渡しつつ、当該給与債権の支払を勤務先から直接受ける権利を保障された給与債権の譲渡人である被告を通じて行われる仕組みになる。譲渡債権の対象が譲受人による直接の権利行使が許されない給与債権であっても、債権譲渡の当事者間における債権譲渡の効力自体が否定されるものではないが、上記回収の場面における想定は、法形式としては債権譲渡(売買)の形態を採りつつも、実際には給与債権の譲渡人と譲受人の二者間でのみ金銭の移転(給与債権の買取金額の支払及び当該給与債権の弁済金の譲受人への交付)が発生し、譲渡人が資金を拠出して譲り受けた給与債権の回収を労働者である譲渡人を通じて行うことを当然に予定する仕組みとなっている点において、実質的には給与債権の譲渡人と譲受人の 二者間における金銭消費貸借取引に類似する面があることを示すものというべきである。」 ⑵「以上に掲げた事実関係は、いずれも原告と取引をした労働者が、所定の債権譲渡通知期限が到来するまでに、譲渡に係る給与債権の額面に相当する金額(原告から交付を受けた買取金額に、一定の金額を上乗せしたもの)を原告に支払うことを事実上義務付けられているという点で、返済期限と利息の合意のある金銭の交付の実質を有しており、給与債権を事実上の担保とした金銭消費貸借取引に類似する面があることを示すものというべきである」 ⑶「原告における給与債権を事実上の担保とした金銭の交付は、経済的機能として、原告の労働者に対する給与債権の譲渡代金の交付と、当該労働者からの資金の回収とが不可分一体となった資金移転の仕組みが構築されたものと捉えることができるから、「売渡担保その他これらに類する方法によってする金銭の交付」に相当し、貸金業法上の「貸付け」に該当すると解するのが相当である。」 ⑷「上記⑴ないし⑶で説示した事実的・法律的な観点を総合すると、本件契約は、実質的には原告と被告の二者間における給与債権を担保とした金銭消費貸借契約であり、貸金業法上の「貸金業」を営む者が行う「貸付け」に該当すると解するのが相当である。」 2 本件契約の有効性について 「貸金業法及び出資法上の規制利率である年109.5%の7倍以上にも達する年800%を超える著しく高金利を定めた金銭消費貸借契約は、貸金業法42条1項により契約自体が当然無効となるのみならず、その合意自体が強度の違法性を帯びており、公序良俗違反の程度が甚だしいものであるといわなければならない。そうすると、本件契約においては、金銭消費貸借契約として原告が被告に対して利息を含む貸付金の支払を求めることは当然許されないし、仮に原告が被告に交付した貸付金元本を不当利得として返還を求めようとする場合であっても、原告の被告に対する6万円の交付は不法原因給付(民法708条本文)となるから、不当利得返還請求権の行使も許されないことは明らかである。」 |