花王における「ビジネスと人権」に関する取組み事例(2024年6月現在)
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花王における「ビジネスと人権」に関する取組み事例(2024年6月現在)
花王は、2015年に「花王人権方針」を策定し、企業活動全体において人権侵害ゼロの実現に向け取り組みを進めています。
同社の具体的取組のうち、人権方針・各種ガイドライン、推進・ガバナンス体制、人権デュー・ディリジェンスの点についてご紹介します。
1.人権方針・各種ガイドライン
① 「花王人権方針」
花王は、2015年に「花王人権方針」を策定し、企業活動全体において人権尊重の責任を果たす努力をしていくことを宣言しています。同人権方針は、2021年及び2023年に改定され今日に至っています。
なお、花王人権方針は17言語に翻訳され、社内で共有されています。
② 「花王ビジネスコンダクトガイドライン」
2003年に、「花王ウェイ」を実践するための企業行動規範として、「花王ビジネスコンダクトガイドライン」を定めています。同ガイドラインは、複数回に渡って改定され、現在(2019年4月改定版)では9項目から構成されています。
9項目のうち人権に関しては、「企業活動全体を通じて人権を尊重する」と定められており、一切のハラスメント行為を行わないこと、児童労働・人身売買・強制労働を許容しないことが宣言されています。
③ 「調達基本方針」
購買取引にあたり、環境保全や安全、人権などに十分配慮し、社会的責任を果たすことが表明されています。
この「調達基本方針」に基づき、2022年6月には「お取引先とのESG推進活動」を策定し、サプライヤーと共に、サプライチェーン上の人権・環境に関わるリスクを把握し改善に向けた活動が行われています。
また、「調達基本方針」に基づいて、2024年4月に、「お取引先に求めるパートナーシップ要件」を定め、取引先に対して遵守とサプライヤーに対する周知を求めています。
人権・労働の要件としては、強制労働、児童労働、不法労働の禁止措置を取ることが要請され、また、適用される法令で定められた労働条件の遵守、受容性と多様性のある職場環境の構築などが求められています。
2.推進・ガバナンス体制
人権の尊重に関するリスク管理部門として内部統制委員会、人権の取組全体について取りまとめを行うESGコミッティ、リスクアセスメントを実施する人権・DE&Iステアリングコミッティ及びそれらの下部組織により人権尊重に関する取組みが推進されています。また、人権の問題は多岐に渡ることから、ステークホルダーごと、テーマごとに様々な部門が個別の取組を行うことの重要性が認識され、横断的な検討が実施されています。
3.人権デュー・ディリジェンス
人権リスクの把握のためのリスクアセスメントとして、人権リスクワークショップと人権調査が実施されています。
人権・DE&Iステアリングコミッティが実施する人権リスクワークショップにおいては、部門横断でステークホルダーごとにどのような人権リスクが存在するかが検討され、そこで挙げられたリスクについて、「ビジネスと人権における指導原則」に従って深刻度・発生可能性に基づく評価を実施し、有識者のアドバイスも踏まえて優先順位を検討し、その結果が「リスクアセスメントにより花王グループにて特定されたリスク」表に反映されています。
2023年に実施された評価の結果、特にリスクが高い対象者は「原材料調達先の生産者や農家」、「グループ会社やサプライチェーンの外国人労働者」であると捉えられ、優先的に取り組むことが確認されています。
また、花王においては、多くの広告が出稿されていることから、広告表現における人権リスクについて言及されている点が特徴的であるといえます。
人権調査については、世界的な企業の倫理情報を管理・共有するプラットフォームであるSedex(Supplier Ethical Data Exchange)を活用して、社内、サプライヤー、委託先に対する調査が実施されています。
花王においては、2030年までに花王グループ、サプライヤー、委託先(花王グループ事業場内)を対象に、人権調査の対応実施率を100%にすることが目標とされています(2023年の調査実施率は、花王グループが100%、サプライヤーが81%、委託先が19%)。
また、2022年9月より、インドネシアの小規模パーム農園を対象としたグリーバンスメカニズム(苦情処理メカニズム)の運用が開始されています。
4.詳細は花王のウェブサイトをご覧ください。
5.取り組みのポイントと弁護士としての所感
(1)企業の人権方針の実効性と文化醸成
花王の「花王人権方針」や「花王ビジネスコンダクトガイドライン」は、企業活動全体において人権尊重を推進するための基本的な指針です。これらの方針は、企業が人権尊重の責任を果たすための基盤として重要です。特に「花王人権方針」が17言語に翻訳されている点は、グローバル企業としての責任を果たし、全社員に人権尊重の意識を浸透させるための取り組みとして評価できます。このような多言語対応は、企業文化として人権尊重の意識を高める一助となります。
(2)ガバナンス体制の透明性と効果的なリスク管理
花王が設置しているESGコミッティや人権・DE&Iステアリングコミッティなどのガバナンス体制は、企業が直面する人権リスクを効果的に管理する上で重要です。内部統制委員会やESGコミッティがリスク管理を担当し、人権尊重に関する取り組みを推進することで、企業全体でのコンプライアンスと透明性を確保しています。特に、多岐にわたる人権問題に対してテーマごとに専門部門が個別の取り組みを行う点は、企業のリスク管理の効果を高めるための優れた方法として評価できます。
(3)デュー・ディリジェンスの徹底と継続的改善
花王が実施している人権デュー・ディリジェンスは、企業が持つ潜在的な人権リスクを把握し、適切な対策を講じるための重要なプロセスです。特に、人権リスクワークショップを通じて、ステークホルダーごとに存在する人権リスクを深刻度と発生可能性に基づいて評価し、有識者のアドバイスを受ける点は、リスク管理の透明性と信頼性を高めるための重要な要素です。これにより、企業は具体的な改善策を講じることができ、人権侵害のリスクを低減することが期待されます。
(4)多様なステークホルダーとの協働と新たな取り組み
花王がインドネシアの小規模パーム農園で開始したグリーバンスメカニズムの運用は、企業が多様なステークホルダーと協働し、人権課題に取り組む具体的な例です。グリーバンスメカニズムを通じて、現地の労働者やコミュニティの声を直接反映させることで、企業が持続可能なサプライチェーンを構築するための重要なステップを踏み出しています。また、広告表現における人権リスクに言及し、対応策を講じる点も、他企業が見習うべき新しい取り組みです。
(5)結論
花王株式会社の「ビジネスと人権」に関する取り組みは、他の企業にとっても模範となるべきものです。人権方針の実効性の確保、透明性の高いガバナンス体制の構築、徹底したデュー・ディリジェンスの実施、多様なステークホルダーとの協働は、企業が持続可能な成長を実現するための重要な要素です。特に、グローバルな視点での人権尊重、多岐にわたるリスク管理、広告表現における人権リスク対応など、他企業にとっても参考になる取り組みが多く見られます。企業が社会的責任を果たし、人権尊重を実践するための指針として、これらの取り組みを積極的に取り入れていただきたいと思います。
6.当事務所としてサポートできること
人権尊重の取組みにあたっては、人権尊重責任を果たすことの表明として、人権方針を策定し、従業員、取引先その他の関係者に向けて周知する必要がありますが、各社の業務内容、サプライチェーンの規模や範囲などに鑑みて、どのような情報を参照して作成すればよいか悩ましいと感じているケースも多いと思われます。
また、「人権デュー・ディリジェンス」は、「ビジネスと人権」に取組む企業にとっては不可欠の取組みである一方、人権デュー・ディリジェンスの対象となる範囲、リスクアセスメントの方法、その他具体的な実施ステップを把握できておらず、できていない企業も多いのではないかと思います。
湊総合法律事務所は200 社を超える顧問企業様(2023年12月現在)に法的サービスを提供してきた知見を踏まえ、各業界、各企業の実態に合わせ、「ビジネスと人権」の取組みを実践していくための「ビジネスと人権法務コンサルティング」を提供し、人権方針策定や人権デュー・ディリジェンスの実施をサポートしております。
企業活動がステークホルダーのいかなる人権にどのような負の影響を与えているかを分析し、重要度と緊急度を把握して、経営課題として捉えるべき人権リスクを明確化することができますので、「人権デュー・ディリジェンスの実施」あるいは「人権リスクの明確化・分析」を検討している企業の皆様は以下のビジネスと人権法務コンサルティングの専用ページ「湊総合法律事務所のビジネスと人権法務コンサルティング」をご覧ください。
「ビジネスと人権」に取り組んでいくうえでの初動対応から今後の対策を含め、ご質問やご依頼などがありましたら、お気軽にお問い合わせください。
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