企業が取るべきアクション:ビジネスと人権に関する国内行動計画
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企業が取るべきアクション:ビジネスと人権に関する国内行動計画
1.はじめに
企業によるステークホルダーに対する人権侵害が国際的に大きな問題となり、2011年に、国連で「ビジネスと人権に関する指導原則」(以下「指導原則」)が承認され、国家だけでなくすべての企業や団体は、その活動において国際人権を尊重する責任を負うことが明記されました。今では、多くの企業が事業活動を行ううえでの人権尊重の指針として指導原則が用いられています。指導原則は、人権状況は各国において異なることから、指導原則の内容を各国において如何に実施していくかについて国内行動計画を策定することを求めています。日本においては欧米を始めとする国々からかなり遅れてしまいましたが、2020年にようやく「ビジネスと人権に関する国内行動計画 2020-2025」が策定されることになりました。
この記事では、弁護士の視点から、「ビジネスと人権に関する国内行動計画」の説明を踏まえ、企業が取るべきアクションについて解説します。
2.「ビジネスと人権に関する国内行動計画」とは何か
「ビジネスと人権に関する国内行動計画」とは、企業が企業活動・事業を行ううえで、ステークホルダーの人権を尊重し、人権侵害の予防や是正を行うための取り組みを明確にする計画です。この計画は、企業が国際人権を遵守し、企業活動やビジネスそのものがステークホルダーの人権に負の影響を与える可能性がある場合に対策を講じることを目的としています。
また、同計画においては、今後政府が取り組む各種施策や企業活動において、人権に対して負の影響を与えていないか評価し、対応する人権デュー・ディリジェンスの導入・促進への期待が表明されています。
この行動計画の実施や周知を通じて、責任ある企業行動の促進を図ることで、ステークホルダーの人権が保護されるとともに、持続可能な開発目標(SDGs)で掲げられた「誰一人取り残さない」社会の実現へとつながることが期待されます。また、その結果として、企業価値と国際競争力が向上し、中長期的な発展へと結びついていくことから、ESG(環境、社会、ガバナンスを考慮した投資活動や事業活動)の観点から、株主をはじめとしたステークホルダーからの評価にも繋がることを期待されています。
3.「ビジネスと人権に関する行動計画」を踏まえて企業が取るべきアクション
「ビジネスと人権」に取り組む際、具体的にどのようなアクションを取るべきかが認識できていない企業、経営者様も多いのではないでしょうか。
以下に、企業が「ビジネスと人権に関する国内行動計画」の一環として取るべきアクションをいくつか紹介します。
(ア) 「ビジネスと人権に関する行動計画」が重視している横断的事項の理解
まず、各企業は、「ビジネスと人権に関する行動計画」が実施を求めている重点的な人権課題について理解する必要があります。必ずしも十分ではないのですが、最低限、しっかり理解し、そこからさらに自社に関連する課題について検討を深めていくという姿勢が大切です。「ビジネスと人権に関する行動計画」が規定している横断的事項は以下の表のとおりですのでご参照ください。
労働(ディーセント・ワーク) | 子どもの権利の保護・促進 | 新しい技術の発展に伴う人権 | 消費者の権利・役割 | 法の下の平等 | 外国人材の受入れ・共生 |
●ディーセント・ワークの促進
●ハラスメント対策の強化 ●労働者の権利の保護・尊重(含む外国 人労働者、外国人 技能実習生等) |
●人身取引等を含む児童労 働撤廃に関する国際的な 取組への貢献
●児童買春に関する啓発 l 子どもに対する暴力への 取組 ●スポーツ原則・ビジネス 原則の周知 l インターネット利用環境 整備 ●「子供の性被害防止プラ ン」の着実な実施 |
●ヘイトスピーチを含むインターネット上の名誉毀損等への対応
●AIの利用と人権やプライバシーの保 護に関する議論の 推進 |
●エシカル消費の普及・啓発
●消費者志向経営の推進 l 消費者教育の 推進 |
●ユニバーサルデザイン等の推進
●障害者雇用の促進 ●女性活躍の推進 ●性的指向・性自認への理解・受容の促進 ●雇用分野における平等な取扱い ●公衆の使用の目的と する場所での平等な取扱い |
●共生社会実現に向 けた外国人材の受入れ環境整備の充 実・推進 |
(イ)内部の人権ポリシー(人権方針)の策定と徹底
また企業は、「ビジネスと人権」に関する明確なポリシー(人権方針)を策定し、従業員に周知徹底する必要があります。このポリシーは、人権への取り組みを具体化し、従業員が適切な行動を取るための指針にもなります。
(ウ)リスク評価とデュー・ディリジェンスの実施
そのうえで企業は、企業活動において人権への潜在的な影響を評価し、社会的および環境的なリスクを特定するための「リスク評価」を実施する必要があります。また、企業は、国際的な人権基準に則り、人権に関する「デュー・ディリジェンス」を実施し、その結果に基づき、適切な対策を講じることが重要です。
〇人権デュー・ディリジェンスの範囲
人権デュー・ディリジェンスにおいては、主に以下のような分類と対策が求められます。
主な分類 | 主な取り組み例 |
人権への影響評価 | ・人権に対する負の影響の特定、分析、評価 |
人権問題の予防、是正措置 | ・人権に関する研修の実施
・人事・評価・働き方等、労働環境の整備、見直し ・サプライヤー行動規範の策定、見直し |
モニタリング | ・従業員や取引先へのヒアリング、アンケート調査
・勤怠、労働時間の管理、労働組合との意見交換 |
外部への情報公開 | ・人権報告書、サステナビリティ報告書の作成・開示
・人的資本開示への組み込み |
なお、当事務所では「ビジネスと人権法務コンサルティング(後述)」において、人権デュー・ディリジェンスをはじめとしたサポートも提供しておりますので、サポートが必要な場合はお気軽にお問い合わせください。
(エ)救済
当然のことですが、企業活動によってそのステークホルダーに対する人権侵害が発生している場合には、企業はいち早くその人権侵害から救済する活動をする必要があります。
(オ)ステークホルダーとの協力とコミュニケーション
企業は、人権方針を策定したり、人権デュー・ディリジェンスを行う際には、関係するステークホルダー(従業員、取引先、投資家・株主、消費者、地域・業界団体、各種自治体など)との協力を図り、コミュニケーションを行うことが重要です。ステークホルダーの意見や懸念を受け止め、適切な対策を講じることで、企業としての信頼性と透明性を高めることができます。
(カ)教育・研修の実施
企業は、従業員に対してビジネスと人権に関する教育や研修プログラムを提供することが重要です。従業員が人権の重要性やリスクについて理解し、適切な行動をとることができるようにすることが目的です。
4.まとめ
「ビジネスと人権に関する国内行動計画」は、企業がビジネス活動において人権を尊重し、人権侵害の予防や是正を行うための重要な取り組みです。企業は、リスク評価やデュー・ディリジェンスの実施、内部の人権ポリシーの徹底、ステークホルダーとの協力、教育・研修の実施など、様々なアクションを取ることで、ビジネスと人権の調和を図ることができます。企業の社会的責任を果たし、持続可能な発展を達成するために、積極的な取り組みを行うことが大切です。
5.「ビジネスと人権法務コンサルティング」について
これまで述べたように、企業経営においても、「人権の尊重」を最重要の経営課題とし、ステークホルダーに与えている負の影響を発見・除去・軽減し、ウェルビーイングを実現することが求められています。このように企業は経営において「ビジネスと人権」について理解し実践していくことが必要不可欠となっています。
湊総合法律事務所は200 社を超える顧問企業様(2023年12月現在)に法的サービスを提供してきた知見を踏まえ、各業界、各企業の法務ニーズに合わせ、「ビジネスと人権」について実践していくための「ビジネスと人権法務コンサルティング」を提供させていただいており、「人権方針策定サポート」を実施しております。人権方針を企業理念と整合させながら策定し、サプライチェーンの分析を行いながら、ステークホルダー毎にどのように人権尊重に取り組むかを明らかにすることにより、ステークホルダーからの信頼を得て、企業価値を高めていく基礎を作り上げることができますので、「人権方針の策定」を検討している企業の皆様は以下のビジネスと人権法務コンサルティングの専用ページ「湊総合法律事務所のビジネスと人権法務コンサルティング」をご覧ください。
「ビジネスと人権」に取り組んでいくうえでの初動対応から今後の対策を含め、ご質問やご依頼などがありましたら、お気軽にお問い合わせください。
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