人権デュー・ディリジェンスの意義と具体的な方策
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人権デュー・ディリジェンスの意義と具体的な方策
人権デュー・ディリジェンス(以下「人権DD」)は、企業がその事業活動およびサプライチェーン全体における人権リスクを特定、評価、予防、軽減するための継続的なプロセスです。
人権DDについては、ビジネスと人権に関する行動計画の実施に係る関係府省庁施策推進・連絡会議の「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」(令和4年9月)や、経済産業省の「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のための実務参照資料」(令和5年4月)が、企業が実践すべき具体的なステップを示しており、企業において人権DDの導入と実施をする際の参考になります。
1. 人権デュー・ディリジェンスの意義
1.1リスク管理と信頼性の向上
人権DDを実施することにより、企業は自身の事業活動やサプライチェーンにおける人権侵害リスクを早期に特定し、適切な対策を講じることが可能となります。これにより、法的リスクの低減や社会的信用の維持・向上につながります。特に、グローバルなビジネス環境では、企業の人権対応が国際的な評価指標となるため、人権DDの実施は企業の競争力強化にも直結します。
1.2 企業価値の向上と持続可能な成長の促進
人権DDは、単なるリスク管理を超えて、企業の持続可能な成長と価値創造に寄与します。人権リスクの適切な管理は、投資家や消費者からの評価を高め、ブランド価値の向上をもたらします。また、人権尊重の取り組みは従業員のエンゲージメントを高め、優秀な人材の確保・定着につながるなど、企業内部にもポジティブな影響を及ぼします。また、中小企業においても人権DDを行うことで海外企業との契約に繋がる可能性がありますし、取引先として選ばれる企業になる可能性が高まるなどのメリットも考えられます。
1.3 法的コンプライアンスの確保
人権DDの実施は、企業が法的コンプライアンスを確保するための重要な手段です。欧州連合(EU)などでは、企業に対してデュー・ディリジェンス義務を法制化する動きが進んでおり、こうした国際的な規制に対応するためにも、日本企業が人権DDを適切に実施することは不可欠です。
2.人権デュー・ディリジェンスの具体的な方策
ビジネスと人権に関する行動計画の実施に係る関係府省庁施策推進・連絡会議の「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」および経産省の「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のための実務参照資料」が示している人権DDのステップとその方法を参考に、企業が実施すべき具体的な手法を以下詳述します。
2.1 ステップ①:リスクが重大な事業領域の特定
まず、企業は自社の事業活動やサプライチェーン全体でのリスクが重大な事業領域を特定します。このステップでは、次の方法を用いることが考えられます。
・内部調査:営業、人事、法務・コンプライアンス、調達、製造など、社内の各部門から人権に関するリスク情報を収集します。
・事業分野・製品(サービス)・地域別の分析:事業分野・製品(サービス)・地域ごとに人権リスクを分析し、自社に関連するリスクを特定します。例えば、繊維事業では労働者に対する搾取が懸念されるため、原材料の調達先や製造工場の労働条件を重点的に評価することが考えられます。
・ステークホルダー等との対話:ステークホルダー(労働組合、NGO、消費者など)や外部有識者との対話を通じて、外部から見た企業の人権リスクを把握します。これにより、内部調査だけでは見落としがちなリスクを補完することができます。
2.2 ステップ②:負の影響(人権侵害リスク)の発生過程の特定
次に、特定されたリスクが重大な事業領域での人権侵害リスクの発生過程を分析します。この段階では、以下の具体的な手法が考えられます。
・苦情処理メカニズムに寄せられた情報の確認:苦情処理メカニズムに寄せられた人権侵害リスクの情報を確認し、その現状を確認するとともに、同様の人権侵害リスクが再発する状況にないか確認します。
・サプライヤー監査:定期的な監査を通じて、サプライヤーが人権基準を遵守しているかを確認します。監査の内容としては、質問票への回答、現地訪問、従業員へのヒアリング、契約内容の確認などが考えられます。
・従業員アンケートとヒアリング:従業員を対象にアンケートを実施し、職場での人権侵害リスクが実際に発生していないかを確認します。また、必要に応じてヒアリングを行い、具体的な状況や原因を深掘りします。
・現地調査:特にリスクの高い地域や業務に対しては、現地調査を実施し、実態を把握します。現地の労働環境、安全対策、従業員の意識などを直接確認することで、書面上のデータだけでは見えないリスクを特定します。
2.3 ステップ③:負の影響(人権侵害リスク)と企業の関わりの評価及び優先順位付け
発生過程を特定したリスクに対して、企業がどのように関与しているかを評価し、対応の優先順位を決定します。このステップでの具体的な手法は以下の通りです。
・リスクマトリクスの作成:人権リスクを「影響の深刻度」と「発生可能性」の2軸で評価し、リスクマトリクスを作成します。これにより、優先的に対応すべきリスクを視覚的に把握しやすくなります。
・関与の程度の評価:企業が人権侵害リスクを「引き起こしている」か、「助長している」か、「直接関連している」かを評価し、それぞれの関与に応じた対応策を決定します。例えば、自社が引き起こしている場合は、即時に是正措置を講じる必要があります。
・優先順位付け:確認された人権侵害リスクのすべてについて直ちに対処することが難しい場合は、発生可能性が高く、影響の深刻度も大きいリスクに対して優先的に対応します。特に、被害者に対する事後的な救済が困難なリスクについては、優先的に対応することが求められます。
2.4 ステップ④:負の影響の除去・軽減と継続的な監査
評価に基づき、人権リスクを除去・軽減するための措置を講じます。この段階では、具体的な改善策を実行し、その効果を継続的に監査します。
・是正措置の実施:発見された問題に対して具体的な是正措置を実施します。これには、労働環境の改善、サプライヤーとの契約条件の変更、倫理基準の再設定などが含まれます。
・改善プログラムの導入:長期的な人権リスクの軽減に向けて、サプライヤー教育プログラムや従業員トレーニングプログラムを導入します。
・継続的な監査とフォローアップ:改善策が実際に機能しているかを確認するため、定期的なフォローアップ監査を実施し、必要に応じて追加の措置を講じます。
2.5 ステップ⑤:適切な開示とステークホルダーへの報告
企業は人権DDの結果や対応策について適切な開示を行い、透明性を確保します。これにより、企業の人権尊重に対するコミットメントを明確にし、ステークホルダーの信頼を獲得します。
・年次報告書やサステナビリティレポートでの開示:人権DDの実施状況、特定されたリスク、対応策、成果などを報告書にまとめ、外部に公開します。
・ステークホルダーへのフィードバックの提供:特にリスクに関わるステークホルダーに対して、企業がどのようにリスクを管理しているかについて説明し、フィードバックを求めることで、さらなる改善に繋げます。
・透明性の確保:適切な情報開示を通じて、企業の取り組みが公正かつ透明であることを示し、社会的信頼を築きます。
3. 湊総合法律事務所の支援サービス
3.1 人権デュー・ディリジェンスの実施支援
湊総合法律事務所は、リスク特定から優先順位付け、対応策の実施、継続的な監査、報告まで、企業の人権DDの各ステップをサポートします。
3.2 ステークホルダーとの対話の促進
当事務所は、企業がそのステークホルダーとの対話を促進し、人権に関する懸念事項を解決するサポートをします。企業がステークホルダーの期待に応え、社会的信頼を高めるための効果的なコミュニケーション戦略を支援しています。
3.3 人権リスクの監査と評価
当事務所は、企業が実施する人権リスク監査、リスク評価と改善提案のサポートをしています。また、評価結果に基づく具体的な改善策に関するアドバイスを提供し、企業の持続可能な成長を支援します。
3.4 負の影響の除去・軽減策の策定と実施支援
当事務所は、人権リスクの除去・軽減策の策定から実施までをサポートします。具体的には、改善プログラムの設計・サプライヤーとの協力体制の構築に関するアドバイス、是正措置のフォローアップなど、企業が効果的に負の影響を除去・軽減できるよう支援します。
3.5 開示と報告支援
適切な開示と報告は、企業に対する信頼を確保するために重要です。当事務所は、企業が人権DDの結果を適切に開示し、ステークホルダーとのコミュニケーションを円滑に行うための支援を提供します。具体的には、報告書の作成・開示戦略の策定に関するアドバイス、ステークホルダー向けのフィードバック収集などをサポートします。
3.6 人権DDに関するトレーニング
企業の担当者向けに人権DDに関するトレーニングプログラムを提供します。これにより、企業内での理解と実践力を高め、人権リスクに対する対応力を強化します。トレーニングでは、経産省の「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」(令和4年9月)や「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のための実務参照資料」(令和5年4月)を基にした具体的な手法やケーススタディを通じて、実務に直結する知識を習得することが可能です。
人権DDは、企業が国際基準に基づいて人権リスクを適切に管理し、社会的責任を果たすための不可欠なプロセスです。具体的な手法を用いて人権リスクを特定・評価し、優先順位付けと負の影響を除去・軽減するための対応策の実施、継続的な監査、適切な開示を通じて、企業はステークホルダーからの信頼を高め、持続可能な成長を実現することができます。
湊総合法律事務所は、企業が実施する人権DDのプロセスを支援し、最適な解決に向けたサポートを提供します。ビジネスと人権に関する取り組みについてのご相談がございましたら、ぜひ当事務所にご連絡ください。
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