ビジネスと人権における「救済」の意義と企業への適用
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ビジネスと人権における「救済」の意義と企業への適用
1.ビジネスと人権に関する指導原則の「救済」とは
「ビジネスと人権に関する指導原則」(UN Guiding Principles on Business and Human Rights, UNGPs)は、2011年に国連で承認(支持)されたもので、企業が人権を尊重し、人権リスクに対応するための国際的なガイドラインです。UNGPsは、人権を「保護」するという国家の義務、人権を「尊重」するよう求められる企業の役割、そして、権利が侵された場合の「救済」の3本柱から構成され、「救済(Remedy)」に関しては、企業に対しても、その企業活動によって生じ得る人権リスクに対応するための仕組み(grievance mechanisms; 苦情処理メカニズム)を利用できるようにしておくことを求めています。
「救済」の内容
救済とは、人権への負の影響を軽減・回復すること及びそのプロセスを指します。
企業は、自身の活動やサプライチェーンにおいて人権侵害が発生した際に、その被害を受けた個人や地域社会に対して適切な救済を実施することを求められます。救済には、以下の内容が含まれます。
・謝罪: 被害者に対して誠実に謝罪すること。
・是正措置: 人権侵害の原因となった状況や行動を改善するための具体的な措置を講じること。
・金銭的補償: 被害に対する賠償金や補償金を支払うこと。
・非金銭的補償: カウンセリングやリハビリテーションなどの非金銭的支援を提供すること。
・再発防止策: 同様の問題が再発しないようにするための対策を講じること。
また、UNGPsは、上記の救済を早期かつ直接的に実現することを目的として、企業に対し、苦情処理メカニズム(Operational-level Grievance Mechanisms)を確立するか、またはこれに参加することを求めています。
苦情処理メカニズムは、①正当性、②利用可能性、③予測可能性、④公平性、⑤透明性、⑥権利適合性、⑦持続可能な学習源、⑧関与と対話に基づくこと、という要件を満たすべきであるとされています。
2.企業が「救済」を実施することの意義
2.1 個人の尊厳の保護
救済措置を講じることは、被害者の個人の尊厳を守る重要な意味を持ちます。企業が適切な対応を行うことで、被害者が人権侵害から受けた傷を癒し、再び安心して社会での活動を続けられるようになります。この姿勢は、企業の社会的責任を果たす上で不可欠です。
2.2 法的リスクの軽減
企業が適切な救済手続きを提供することにより、訴訟や法的制裁を回避できる可能性が高まります。つまり、迅速かつ適切に対応することで、被害者からの訴えが法的手続きに至る前の話し合いにより解決されることが期待できます。
2.3 レピュテーションの保護と強化
企業が積極的に人権侵害に対応し、適切な救済を実施することで、社会的信頼を得ることができ、レピュテーションリスクを低減できます。また、透明性のある対応をすることは、投資家や消費者からの信頼を得る上でも非常に重要です。
2.4 ステークホルダーとの関係強化
救済を通じてステークホルダー(従業員、取引先、地域社会など)との信頼関係を強化し、持続可能なビジネスを実現するための基盤を作ることができます。ステークホルダーとの対話を促進し、彼らの期待に応えることは、企業の長期的な成功に繋がります。
2.5 持続可能な成長への寄与
適切な救済手続きを整備することで、企業は持続可能な成長を実現できます。人権侵害が放置されると、長期的なビジネスの存続に悪影響を及ぼすリスクが高まりますが、早期の対応によってこれを未然に防ぐことができます。
3.湊総合法律事務所が提供するサポートとサービス
3.1 苦情処理メカニズムの設計と導入支援
当事務所では、企業が独自の苦情処理メカニズムを構築するにあたり、初期段階でのリスク分析や既存制度の評価、必要な改善点の明確化などの支援を行います。ただし、全ての設計や導入プロセスを包括的に請け負うわけではなく、企業の特性や状況に応じて必要なアドバイスやサポートを提供いたします。
3.2 人権侵害リスクの評価と救済対応策の策定
当事務所では、企業の人権侵害リスクを評価し、救済対応策の策定に関するアドバイスを行います。具体的な支援には、リスク評価の方法の提案、個別事案における適切な救済措置の検討や、企業内でのワークショップの企画サポートなどの支援を行います。
3.3 救済の実施とモニタリング支援
当事務所では、救済措置の実施が適切に行われているかの確認をサポートするためのモニタリング手法についてアドバイスを行います。必要に応じて、再発防止策の提案や、ステークホルダーとの対話の促進についても可能な範囲で支援いたします。
3.4 透明性のある報告とステークホルダーコミュニケーション
企業が救済プロセスとその成果を適切に報告できるよう、透明性の確保に向けた助言や、各種報告書やレポートの作成支援を行います。
ビジネスと人権に関する指導原則に基づく「救済」は、企業にとって、被害者の尊厳の保護をはじめ、法的リスクの軽減、レピュテーションの保護、ステークホルダーとの関係強化、持続可能な成長への寄与といった多くのメリットがあります。そして、適切な救済措置の実施は、企業が社会的責任を果たすために不可欠です。
当事務所は、企業がこの重要な役割を果たせるよう、ニーズに応じたサポートとアドバイスを提供します。企業の救済に関する取り組みについてのご相談がございましたら、ぜひ当事務所にご連絡ください。
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