強制執行手続

強制執行手続

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強制執行手続

支払いの滞った取引先から売掛金を回収したい場合など、自らの権利を実現したい場合には、民事訴訟を行って判決や裁判上の和解を獲得すべきことは一般的に知られているところです。

しかし、債務者がその内容に従わない場合には、判決や裁判上の和解を獲得しても、それだけでは権利の実現(売掛金の回収)を達成することができないことには注意が必要です。
いわゆる勝訴(勝訴的な和解)に至っても、自動的に裁判所が取り立て等の措置を行ってくれるわけではありません。
また、当然のことながら、自身の手で債務者の財産を奪うといった自力救済も認められません(自力救済禁止の原則といいます。)。

このような場合には、獲得した判決や和解調書を基に、別途、強制的に債務者に義務を履行させる手続を裁判所へ申し立てなければなりません。
これが強制執行手続と呼ばれるものです。
 

1 強制執行の仕組み

強制執行の仕組みは大まかに次のようになっています。

判決・和解等⇒強制執行の申立て⇒財産の差押え⇒競売又は取立て⇒配当

強制執行は、国家権力が権利内容の実現を私人に対して強制する手続であるため、その実行のためには厳格な根拠(「債務名義」といいます。)をもって申立てが行われる必要があります。
強制執行の申立ての前提として判決や裁判上の和解等が必要となるのは、この債務名義が必要となるからです。
債務名義は具体的には主に次のようなものが挙げられます(民事執行法第22条各号)。

①確定判決

「被告は、原告に対し、○○円を支払え。」といった形で命じている判決で、上級裁判所によって取り消される余地のない状態に達した判決のことをいいます。
 

②和解調書、調停調書等

民事訴訟における裁判上の和解や民事調停等において、裁判所書記官がその合意の内容を裁判記録として記載した調書のことをいいます。
 

③執行証書

金銭の支払いなどを目的とする請求に関するもので、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載された公正証書(公証役場の公証人がその権限に基づいて作成した公文書)のことをいいます。
なお、私人間で作成した契約書は、民事訴訟において契約の成立を示す重要な証拠にはなりますが、公正証書の形で作成されていない限りは債務名義とはなりません。
 

2 強制執行の種類

強制執行の中でも典型的な、金銭の支払いを目的として債務者の財産を差し押さえる強制執行(「金銭執行」といいます。)としては、差し押さえる対象ごとに次の3つが挙げられます。

①債権執行

債務者が第三者に対して有する債権を差し押さえ(この第三者のことを、債務者側から見た別の債務者として、第三債務者といいます。)、第三債務者から当該債権を直接取り立てたり、当該債権の移転を受けるなどして債権回収を図る執行手続です。
申立てに必要となるコストも低く、金銭執行において最も多く検討される手続といえます。
債権執行の対象として検討される代表的なものとしては、預金債権が挙げられます。
また、債務者が個人の場合には給与債権、債務者が事業者や会社の場合には売掛金債権などが検討されることが多いです。
ただし、給与債権や社会保障給付などへの差押えには制限があります。
 

②不動産執行

債務者が所有する不動産を差し押さえて競売にかけ、その売却代金によって債権回収を図る強制競売手続のほか、債務者が所有する不動産から生じる賃料などから債権回収を図る強制管理手続があります。
不動産執行では、債務者が所有する自宅の土地建物や、自社ビルの土地建物などが検討されることが多いです。
不動産は、不動産登記を調査することでその所有者を確認することができるため、債務者の住居やオフィス等の住所が分かれば不動産執行の対象の有無について当たりをつけることができます。
もっとも、不動産執行の申立てのコストは高く、また競売手続にも時間を要するため、実際に申立てを行うべきか否かは慎重に判断する必要があります。
また、目的の不動産に抵当権等の担保権が設定されている場合には、担保権者の債権回収が優先されてしまいます。
 

③動産執行

債務者の所有する動産を差し押さえて競売にかけ、その売却代金によって債権回収を図る執行手続です。
債務者が特定の場所において保有している現金、貴金属、骨董品や有価証券などが対象となります。
ただし、現金については66万円を超える部分までしか差押えができません(66万円は債務者の手元に残す必要があります。)。
また、債務者の生活に欠くことのできない衣服、寝具や食料などの差押えは禁止されています。
 

3 強制執行の難しさ

⑴執行の対象は債権者が特定しなければならない

強制執行の申立ての際には、債務者がいかなる財産を所有しているのかの調査、何を執行対象とするべきかの選定、及び執行対象とする財産の具体的な特定について、いずれも債権者が自らの責任で検討しなければなりません。
債権であれば、預金債権(預金口座)の有無とその特定、売掛金債権であれば具体的にどの取引先との間の売掛金が存在するのか、給与債権であれば勤め先はどこなのか、といった情報を債権者が自ら獲得しなければなりません。
不動産であっても、不動産登記で調査が可能とはいえ、特定の住所に当たりがついていなければ検討はできません。
このような情報を債権者が獲得することは容易ではありません。
 

⑵債務者の財産を調査する制度を十分に活用する必要がある

債務者の財産調査を十分に行えないまま強制執行の申立てを行ってしまうと、執行対象とした預金口座に実際にはほとんど預金が無いなど、強制執行が空振りに終わってしまう恐れがあります。
そこで、強制執行の実効性を向上させるため、財産開示手続という制度が用意されています。
財産開示手続とは、債権者の申立てによって裁判所が債務者を呼び出し、債務者の財産状況を陳述させる制度です。
財産開示手続は、これまで債務者の不出頭や虚偽陳述に対して軽微なペナルティしか設けられておらず(30万円以下の過料)、実効性の乏しい制度と評されていましたが、令和元年の民事執行法の改正により厳罰化されたことで(6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金)、実効性の期待できる制度となりました。

加えて、上記の民事執行法の改正では、新たに情報取得手続(第三者からの情報取得手続)という制度が設けられました。
情報取得手続は,債務者の財産に関する情報を債務者以外の第三者から提供してもらう制度であり、これによって行政機関や金融機関から債務者の不動産、給与(勤務先)、預金口座や保有する上場株式等の情報を得ることが可能となりました。

債務者の財産調査においては、これらの制度を十分に活用することが重要となります。
特に財産開示手続では、実際に債権者が債務者と対面して財産に関する質問を行うことになりますので、債権者側の対応によって得られる情報の量・質は大きく左右されます。
十分な財産調査を行うためには、信頼のできる弁護士に対応してもらう必要があります。

なお、弁護士は受任事件に関する調査のために弁護士会照会(弁護士法23条の2)という制度を利用することができ、債務者の財産調査においても様々に活用できる可能性があります。
このような制度を活用できることも、弁護士に依頼することのメリットといえます。
 

⑶強制執行を行うことの損得の判断が難しい

強制執行の種類の項目でもいくつか指摘していますが、強制執行では何でも差し押さえられるというわけではなく、法律上の様々な制限があります。
したがって、債務者の財産について一定の目ぼしがついた場合でも、実際に差押えが可能であるかは十分に検討する必要があります。

また、強制執行を申し立てるためにもコストがかかりますので、回収の見込みを適切に予測した上で実行しなければ、費用倒れの結果に終わってしまう可能性もあります。
特に不動産執行では、申立ての時点で裁判所に対して50万円~100万円程度の予納金を収める必要があります。
この予納金は手続が終了すれば返還されることになっていますが、差押えや競売手続に要した実費がいずれも差し引かれることになりますので、相当額は返還されないことを覚悟しておかなければなりません。
加えて、不動産や動産を差押えて競売を行う場合には、申立債権者だけではなく、債務名義を有する他の債権者も配当に参加することができます(「配当要求」といいます。)。
したがって、強制執行を申し立てる際には、他の債権者の存在も調査しておかなければ、コストをかけて強制執行を申し立てたにもかかわらず予想外に配当が減ってしまう恐れがあります。

このように、強制執行を行うべきか(どのように行うべきか)の判断は難しく、申立てを行う際には、強制執行の複雑な仕組みを理解した上で適切な見通しを立てる必要があります。
この判断は非常に難しいものであるとともに強制執行事案の要所であり、弁護士の腕の見せ所ともいえるポイントです。
 

4 おわりに

本記事では、強制執行手続の概要と、その複雑さや判断の難しさについてもお伝えしました。
強制執行は、奏功すれば権利の実現を達成することのできる手段ですが、その裏には空振りや費用倒れのリスクが常に潜んでいます。
強制執行において失敗しないためには、知識はもとより、十分な経験に基づいた見通しと判断が必要となりますので、信頼のできる弁護士に相談すべきといえます。

当事務所は、債権回収と強制執行についても豊富な経験を有しておりますので、特に事業者や企業の皆様のお力になれるものと自負しております。
お困りの際は当事務所へ是非ご相談ください。
 
 
 

 

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