残業代を請求された場合の対応(年俸制や固定残業代制の場合)
タイトル..
残業代を請求された場合の対応(年俸制や固定残業代制の場合)
●医師に裁量労働制は適用されず、年俸制を採用していても残業代の発生は避けられない
●一定に役職に就いている医師であっても、残業代の発生しない「管理監督者」に該当するケースは多くない
●固定残業代制度を採用している場合
【解説】
1 医師に裁量労働制が適応されるか?
法律上、裁量労働制を採用できる業種は限定されており、医師はこれに含まれません。
したがって,医師に裁量労働制が適用される余地はないことになります。
2 年俸制との関係
医師の雇用契約においては、「年俸制」で給与が決められていることがあります。年俸制の場合には残業代は発生しないという誤解を持たれている方がいますが、年俸制は単に1年間の給与の総額を決めているということであり、残業代が発生しないということはありません。
3 管理監督者に該当するか?
労働基準法41条2号が規定する「管理監督者」には、残業代は発生しません。
実際、多くの医療機関において、医師に一定の役職、地位を与えて、「管理監督者」として残業代を発生させないようにしているケースが存在します。
しかし、「管理監督者」に該当するか否かは、①経営に関与する立場にあるか、②人事労務の指揮監督権限を有するか、③自己の労働時間をコントロールする権限を有するか、④他の労働者よりも好待遇を受けているか等を総合的に考慮して判断されます。
個別具体的な判断が必要ですが、一定の役職が与えられた医師であっても、経営に関与しているわけではない、出退勤時間が決められていて労働時間を自由にコントロールできない、人事労務の指揮監督権を有していない等の事情から、医師が残業代の支払を要しない「管理監督者」に該当しないケースが多いと思われます(いわゆる「名ばかり管理職」)。
4 固定残業代制度(みなし残業代制度)
固定残業代制度とは、残業の有無にかかわらず、固定給に一定額の残業代を含めて支払う制度のことをいいます。
固定案業代制度は、残業代の人件費を抑制するために有効な手段であり、広く採用されています。
もっとも、形式的に固定残業代制度を採用していても、労働契約上、給与のうち固定残業代がいくらであるのか明示されていない、固定残業代に含まれる残業時間を超えて残業を行った場合に当該超過分の残業代が適正に支払われていない等の理由で、そもそも固定残業代制度が無効とされるケースがあることに留意が必要です。
裁判例上、固定残業代制度が有効とされる要件は、以下①~③になります。
①固定残業代制度を採用することが労働契約の内容となっていること
②通常の労働時間に対する賃金額と固定残業代に相当する賃金額が明示され、明確に区別されていること
③固定残業代を超える残業代差額を支払うことが合意されていること(又は差額の支払実績があること)
もし、上記要件を欠いている場合には、固定残業代制度自体が無効となってしまい、固定残業代を含めた高額な給与額を基準に残業代を再計算することになるため、非常に高額な残業代請求が認められてしまうことになります。
【まとめ】
医師から残業代請求を受けた場合、医療機関(病院、クリニック)としては、管理監督者に該当するとして残業代は発生しないと主張できるか、固定残業代制度が適用され、請求を受ける残業代を減額できないか等を早急に検討し、検討結果に基づいて適切に対応する必要があります。
適切な対応がなされないと、医師が労働基準監督署に申告して、医療機関に立ち入り調査が入って、是正勧告がなされたり、または医師が労働審判や民事訴訟等の法的な手続を申し立て、紛争が拡大、長期化したりするリスクがあります。
医師から残業代請求を受け、対応にお困りの医療機関がいらっしゃいましたら、医療機関の労務紛争について経験実績のある湊総合法律事務所にご相談ください。
どのような法的主張が可能なのか、また同様の事態が生じないようどのような予防策を採るべきか等について、的確にアドバイスをさせていただきます。
お困りの方は湊総合法律事務所までご相談ください。
<顧問弁護士について> 当事務所では、医療機関と顧問契約を締結させて頂き、様々なリーガールサービスをご提供しております。 顧問弁護士が継続的に医療機関に関する法的なサポートをさせていただくことで、より効果的に法的トラブルを防止し、迅速かつ的確な問題解決を図ることが可能となります。 そのために私達の事務所では法律顧問契約を締結して対応させていただくことをお薦めしております。担当弁護士が医療機関の状況を把握して、直接お会いして、あるいは電話、メール、Zoomなどの手段を適切に利用して、相談に臨機応変に対応させていただいております。 こうすることにより問題発生前に法的トラブルを防止し、 医療機関の価値を高めることを可能としています。 法律顧問料はかかりますが、結果としてコストの削減にも繋がっていきます。 ▷顧問契約についての詳細はこちらに掲載しております。是非ご参照ください。 |